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言いかけて、止まる。
ぎょっと目を剥いた伊吹の視線の先には。
「あらぁん! まだいたの伊吹ちゃん!」
胸がパツパツのTシャツに短パンを着た、筋骨隆々な男が立っていた。
「だっ……誰だオッサン!?」
驚愕する伊吹に、短髪の男はオーバーに傷付いた反応をする。
「やだもう忘れたの!? キャメロンよ! メ・ロ・ン・ちゃん」
むっふんと投げキッスをしてくるのは間違いなく彼女――いや、彼なのである。
店で着ているメロンの化身みたいな黄緑の衣装ではないが、確かにしなの作り方は本人だ。
じゃあねん、と軽快な足取りで去っていくキャメロンに続き、またもや見慣れない青年が出てくる。
染めたこともなさそうな黒髪で、白いシャツに眼鏡という格好はどことなく神経質そうだが。
「じゃあね、江本くん」
ミフユが手を振ると、ぺこりと会釈が返ってきた。そして、そのまま店を後にしていく。控えめな性格らしい。
そんな謙虚なキャストが居ただろうかと、伊吹は首をひねった。
「今のは?」
「パピ江ちゃんよ」
はぁ?と伊吹がとぼけた声を上げている間に、アキとモモが出てきた。この二人は店と変わらない姿である。
「驚きました?」
クスクスと笑いながら降りてきたアキに、伊吹は変な表情で呆然と返す。
「驚くも何も……なんだありゃ。普通にそのへんにいる野郎じゃねぇか」
「そりゃ野郎ですもの」
横でモモが可笑しそうに笑い、手元のスマホを見て、あっと声を上げた。
「いっけない! 今日は息子ちゃんのお弁当作ってあげなくっちゃ。もう行くわ、バイバイ!」
「は、え? 息子?」
モモもまた去って行き、後にはミフユたち三人だけが残される。
茫然とみんなの後ろ姿を見送った伊吹は、ぽつりと呟いた。
「どういうこった……?」
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