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 「ミフユさん」  アキは、『もうちょっと待ってください』と言いたげな目配せをした。はーい、と間延びした声で応えて、ミフユはカウンターに頬杖をつく。  赤らんだ伊吹の顔を、アキはまっすぐに見つめた。  「『男』と『オネエ』は、まったく別の生き物ではないです。両立してる人だっている。  そういう場合は、それぞれの要素が重なり合っている部分が本人のアイデンティティですから――それを強く否定されたら、傷付きます」  伊吹の目がゆっくりとこちらを向く。ミフユは何の感情も込めずその目を受け止めた。  「……如月がそうだと?」  「はい。  師走さんの男友達も、  【大冒険】で働いてる私たちのママも、  どちらも同じ人だと私は思います」  結論に辿り着きながら、伊吹はキツネにつままれたような顔をしているが。  アキははっと目を見開くと、急にあたふたと慌て始めた。  「ごめんなさい! お客様にお説教なんてっ」  「それは構わねぇけど」  「偉そうに言ったけど、受け売りなんです。私の恩人の」  「恩人?」  アキははい、と頷いて、ミフユの方を見た。  「ママ、むかし私が自暴自棄になってたときに助けてくれて。  ヤケになりなさんな、『男と女が同居してるアタシ』を愛してあげなさいなって、言ってくれたんです」  キラキラと眩しいくらいの尊敬のまなざしが送られてくる一方で、過去を知る伊吹からは疑いの目が向けられる。マジで、お前がそんなこと言ったのかと。

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