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「ウチの調べで、クスリを流してるのはこの男じゃねぇかって言われてる」
早朝の店内は、出勤前の会社員がぽつぽつと座っている程度でとても静かだ。
窓際奥の席に着くと、伊吹は控えめな声で話を切り出した。彼の向かいに座ったミフユは、テーブルに出されたスマホを手に取る。
隠し撮りのようで、中心にいる人物は画面外に視線を向けていた。
「【禁じられた果実】は、ウチの系列の、おもに夜の店で従業員の手から流されている。
で、どの店にも熱心に通ってくださってるのが、この水無月 春悟 」
そう言って、写真の男が指差される。
「こいつは彩極組の若頭で、風俗系店舗の統括をやってる。
わざわざこっちの店に顔出してくんのは、キャストの引き抜き目的だと思われてたが、どうやらそれだけが目的じゃなさそうだな」
ミフユは画面の中の白スーツを纏った男を見下ろして、溜め息をついた。
「…………おブスね」
「そこかよ」
写真越しでも分かる脂ぎった禿頭に、でっぷりと張った太鼓腹。めんたいこを彷彿とさせる唇に細い目は、ミフユの好みからはかけ離れていた。
「『そこかよ』じゃないわよ、見た目は重要よ!
敵を倒すにはまず敵をよく知ることからって言うけど、嫌いなモンを調べるなんて苦痛じゃない。もっとタイプの人がいい!」
「お前の好みは知らねぇよ」
「うーん、クマ系も捨てがたいけど……アタシは基本綺麗系が好きね。吉沢亮とか」
「あのな、恋バナしに来たんじゃねぇんだよ!」
がいんっとテーブルを蹴り上げた伊吹に、カウンターでモーニングを用意していた熟練マスターの視線が突き刺さる。気付いて気まずげに咳払いをした伊吹は、ズレたテーブルを戻しながらともかく、と念を押す。
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