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 「水無月春悟。覚えたな? 俺たちはまずこいつをどうにかしなきゃならねえ」  「えー」  「えーじゃない、自分のモチベは自分でどうにかしろ」  「どうにかしろったって……」  つまらなさそうにスマホの画面を拡大したり縮小したりを繰り返して、ミフユはふと指を止めた。  拡大しきった水無月の後ろに、こぎれいな若い青年が映っている。  「あらやだっこっちの子イケメンじゃない!」  夜の新宿らしき街で黒いスーツを着た若者は、ホストか何かだろう。だが、顔はそこらの俳優より整っている。  「ああ、そいつは――なんだったかな。確か、うちが数年前に彩極側のホストクラブからヘッドハンティングしてきた――っと」  うっとりと写真を眺めていると、画面が着信モードに切り替わった。  「ちょっと待ってろ」  「あ、まだ見てたかったのに」  伊吹はスマホを取り上げて、電話の向こうの相手と通話を始めてしまった。  「俺だ」  通常よりも一トーン低い声で、舎弟か誰かと会話している。  突然することがなくなってしまったので、ミフユはしばらく伊吹の横顔を眺めていることにした。  「ああ、平気だ。起きてた。それで? 何か情報は」  やや崩れたオールバックの黒髪を掻き上げる仕草は、それだけで目が惹かれる。  真剣な横顔は、ヤクザらしからぬ線の細さですっとした鼻梁を描いているが、きりっとした眉の下の目は鋭かった。  (うーん、でもやっぱ伊吹ちゃんが一番だわ)  ミフユは頼んでいたモーニングが運ばれてきたのにも気付かずに、伊吹をじっと見つめていた。  と、  「何見てんだ」  通話を切った伊吹が怪訝そうにこちらを向く。  「べつに。電話、何かあった?」  はぐらかすと、伊吹は頷き、画面をさっきの写真に戻した。  拡大して、イケメンホストの方を見せる。  「お前に朗報だ。この男に会えるぜ」

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