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 雄々しい叫び声を上げて盛大につんのめった伊吹を、驚いたミフユが咄嗟に支える。あやうく顔からコンクリートにぶつかるところだ。  「危ないわね!」  「っな……な……」  支えた左胸がバクバクと波打っている。  さぁっと青褪めた伊吹をそっと立たせてやると、ミフユはふむ、と顎に指を当てた。  「やっぱり、ハジメテの子にはきつかったかしら?  ヒール」  「妙な言い方をすんな、……ったく」  くそ、と悪態をついた伊吹は、その場にかがみ、山吹色の『スカート』の下のナマ足を乱暴に擦った。  「今ので変な筋が攣った! だぁ! 踵は擦れるし爪先は痛ぇし!」  「それがオンナの努力ってやつよ」  「こんな努力ならいらねえ! ――じゃなくて」  シルバーのヒールを荒っぽく脱いで宙へ放っぽった伊吹は、長い黒髪を振り乱しながら怒鳴った。  「俺はオンナじゃねえ!!!」  そう。  一週間前、二人が早朝の喫茶店で取り決めた計画。  【禁じられた果実】の取引現場に、彼らが“違和感なく”潜入するために企てた作戦は。  「最悪だ! 誰だこんな無茶苦茶な計画立てたのはっ、――畜生が俺達じゃねぇか徹夜のテンションで決めるんじゃなかった!!」  “ホストクラブである【EDEN】のメインターゲット、女性を装って、客として入店する”というものだった。  

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