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客として店内に溶けこみ、【禁じられた果実】の取引現場を確認したところで、外で待機している鳳凰組の構成員たちを呼び寄せる。そんな手筈になっている。
「そうよ。発案者はアタシだけど、伊吹ちゃんも『名案だな!』つって許可したじゃないの」
「クソッ……睡眠をとってから聞いとけば即却下したものを」
憤慨する伊吹を仁王立ちで見下ろすミフユは、黒いタイトスカートを履いている。膝上だ。
パンプスをコンッと優雅に鳴らし、腕組みする。上は白の開襟シャツ。そして、肩程まで伸びた緩いパーマの髪はウィッグだ。
スタイルの良さもあって、一見キャリアウーマンの風格を醸し出すが、異様な背丈の高さと肩幅の広さがそれを否定する。
「ほら伊吹ちゃん、いったん車に戻って。通行の邪魔になってるから」
ミフユは伊吹を助け起こして、路傍に停めてあったバンに戻った。
後部座席に乗り込むと、運転手役の舎弟が「あれ?」と振り返る。
「カチコミ行ったんじゃなかったんすか?」
「一回タンマ。ちょっと伊吹ちゃん衣装チェンジで」
ミフユが組を去った後で伊吹に拾われたという若い弟分は、そうですか、と平坦な声で応える。
クソがちくしょうがと悪態をつく兄貴分にも怖気づかずのんびり構えて、どこか眠たげな目で伊吹の様子を窺った。
「マジで最低だ、なんで俺が女装なんか」
「お似合いですよぉ~」
「舐めてんのかてめえ!!」
「ええ!?」
舎弟の方はフォローのつもりで言ったらしく、驚愕している。ミフユが伊吹の肩をつっついて援護に回った。
「そうよねえ、ちゃあんと似合ってるわよね、イヌガミくん?」
「狗山 です」
「似合うわけあるか!」
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