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さきほどバー・【大冒険】にて行われた最終準備。
それはつまり、女装だった。
店のオネエ陣の中では綺麗系のアキとモモのプロデュースにより、伊吹とミフユはメイクやファッションを整えられた。
事情も知らないままにアキたちは見栄えよくやってくれたと、ミフユは思うのだが。
なにせどっちも体格が立派なために、とても女性には見えない。
「こんなカツラもかぶってられっか!」
もとより女装などに興味のない伊吹は、ブチギレてウィッグまでも脱ぎ捨ててしまった。
「ああっ、ちょっと! かぶっときなさいよ」
「うるさい、やってられるかってんだ」
「オールバックのOLなんていないわよ!」
うるせえうるせえとガニ股を開いて運転席のシートを蹴りつけた伊吹が、こちらを指差してくる。
「テメェこそまたこんな夜にグラサンなんかかけやがって、そんな胡散臭え女が居てたまるか!」
「万が一の身バレ防止なんだからしょうがないでしょ? ミステリアス系美女ってことでいけるって」
美女、のあたりで鼻で笑うと、伊吹は念のためにと用意されていた予備の衣装袋を荒々しく探った。
スニーカーを取り出し、それを履いてしまう。
ミフユは無言でカツラを差し出したが、そっちは死んでもかぶらない。
「せめて前髪くらい下ろしなさいよ」
ったくもう世話の焼ける、と強引に前髪を乱しにかかったミフユに伊吹が慌てる。
「馬鹿やめろガキ臭く見えるだろうが!」
「アンタそんなん気にしていつも髪上げて……ってだああもう、いいわ! ごちゃごちゃやってないで行くわよ! 取引終わっちゃうじゃないっ」
そんなこんなで、作戦の出だしはグダグダだった。
ようやく車を降りた二人は――――歌舞伎町一番街のアーチの下に立った。あれこれと言い合っているうちに、目的の店・【EDEN】の前にたどりつく。
「ここね」
「おう。行くぞ」
写真で見た通りの外観だった。ぎらぎらしたネオンが入口の辺りを照らしている。
ミフユたちは一度視線を交わすと、一歩踏み出して、黒服のボーイに声をかけた。
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