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 荒っぽいやり方だが、ボーイも明らかな不審者を入れさせまいと躍起になる。  「それはそれは……大変失礼いたしました。しかし、どう見てもお客様、男性の方で……」  「体が男だったら女じゃないってのォオオオ!!? ひどいわああ、このお店ひどいわあああん!!」  「ちょ、ちょっとお客様っ!?」  全力で関節をくねくねさせて女性らしさを演出してみるものの、なぜか隣で伊吹が顔を青ざめさせている。  (なんでお前が引いてんだよ!)  内心突っ込みつつも、周りの目を引くように騒ぎ立てた。  「ひどいっ! ひどいわぁ、オカマにはこんな些細な楽しみも許されないのねっ!」  「おおお客様! でしたら女性の方といらっしゃれば、お通ししますから」  「この子は駄目だっていうのー!?」  がばりと伊吹を抱きしめて叫ぶと、腕の中の頭が暴れに暴れた。  (っおい、俺までヤベェ奴にすんな!)  (うるさいわね、こうでもしなきゃ入れないわよ! ていうかこの作戦でよかったのかしら本当に!?)  バタバタ騒ぎながら、店に入れろと脅しつけていると。  「お客様、どうされました?」  凛とした声が響き、ざわめき立っていた空気が一気に鎮まった。  「「!!」」  暴れ狂っていた二人はピタッと動きを止めて、声がした方へと視線を遣る。  店の奥からカツカツと靴を鳴らして現れたのは、輝かしい(かんばせ)の美男子だった。  「君。何があったの」  「は、はぁ……」  洗練された華を纏った男は、静かに尋ねる。照明を反射して明るい髪がきらめいた。  「こちらのお客様が、『心は女性なので入店させてほしい』と……見た目は男性なんですが」  「そう」  ボーイに詳細を聞き、真剣な顔で相槌を打つ。  「分かった。君は一度下がって」  「はい?」  呆気にとられるボーイを置いて、男はくるりとミフユたちのほうを振り返った。

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