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 「お客様。誠に申し訳ありませんでした」  言うやいなや、ためらうことなく頭を深く下げる。  それで泡を食ったのはミフユたちを厄介払いしたがっていたボーイだ。驚いた声を上げるが、「君は下がりなさい」と再びあしらわれる。  ボーイがすごすごと引き下がる間にも下げた頭は上がらず、続けて謝罪が述べられる。  「私の教育が足りないばかりに、お客様には大変ご不快な思いをさせてしまいました。  今後は従業員の指導を徹底して参ります。何卒ご容赦ください。  よろしければ、今すぐにお通ししますが」  「え。あ、いや……」  流暢な語り口に、ミフユは思わず素で言葉を失ってしまう。  「おい。なに見惚れてんだ」  伊吹にじろりと睨まれてつい謝る。  「ご、ごめん」  (この子、写真に映ってたホストだわ)  水無月の後ろに小さく映り込んでいた人物だ。美形具合からして間違いない。  「私は【CLUB EDEN】のオーナー、#遥斗__ハルト__#と申します。  店の代表として、あなた方には深くお詫びを」  「あ、あああ~! いいのよ、アタシたちもちょっと大人げなかったわ!」  伊吹はテンパる相棒をやや冷たい目で見、まだ首を抑え込んでいたミフユの腕から逃れて、遥斗の前に立った。  「あんがとな兄ちゃん。酒はたんまり入れてやるからさ」  「ありがとうございます」  彼の立つすぐ後ろに、輝かしい『NO.1 遥斗』の額縁入り写真が掲げてあった。  そのナンバーワン直々の案内でミフユたちはボックス席に座る。  すると、すぐにボトルが一本運ばれてきた。  「アタシたちまだ何も頼んでないわよ?」  「これは、私からの個人的な贈り物です。  今夜の思い出が、どうか汚れたままにならないように」  ミフユがまじまじと見つめていると、遥斗はくすりと笑ってミフユの手を取った。  「それでは、素敵な一夜を」  そのまま迷いなく唇を手の甲に押し当てて、ハリウッド級のウインクが向けられる。  彼は一礼して元いた卓に戻っていったが、ミフユは手を出したまま惚けていた。  「……アタシ、ここに通っちゃおうかな」  「本来の目的を見失うなよ」  「分かってるわよ」

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