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 人相の悪い笑みを浮かべた伊吹が、卓上のアタッシュケースを指した。  「お楽しみのところ悪いね。  【禁じられた果実】の件でな、あんたがたに用があんだわ」  「――っこいつ、クスリのこと知ってやがっ……」  テーブルを蹴りつける衝撃音が響き、ざわついていた店内が一気に静まり返る。  音の発生源は、ソファの中心で葉巻を咥えていた水無月だ。細い目をぎらつかせて伊吹を睨みつける。  「どこのバケモンかと思や、鳳凰組の師走じゃねぇか。なんだ、ムショでカマでも掘られて目覚めたのか」  「あ? そんな奴知らねえな。俺はただのそのへんにいる女だ」  「そのへんにいる女ならさっさと去れ。殺すぞ」  今度の轟音は伊吹の足から鳴らされた。スニーカーの底で蹴られた大理石のテーブルがひび割れ、のっていたグラスが転がり落ちる。  「ここは鳳凰組のシマだろうがよ。勝手やってんじゃねぇぞ」  地を這うような低音で詰め寄る。山吹色のスカートを履いているのを忘れそうなほどの迫力だ。  だが相手も極道。怯むことなく、あざ笑った。  「はっ、つまみだせ。どうせ証拠なんかありゃしねえんだ」  顔をしかめ、虫でも払うかのように手を振る水無月に今度はミフユが迫った。  「そうかしら?」  一歩近付き、スマホをかざす。そこに映し出された写真を見ると男の顔色が変わった。  「おい、それをどうする気だ」  目に見えて焦り始めた水無月に、ミフユはにっこり笑いかける。  「どこに送ろうかしら? 鳳凰組の組長とか? 警察に見せてもいいわね」  「――――待て!」  迷いなくボタンを操作し、写真付きでメッセージを送信した。  水無月には見えなかっただろうが、宛先は外で待機している鳳凰組組員たち。  ミフユから送られた『証拠ゲット♡ 突入!』の一文が、開戦の合図だった。  「送っちゃった♡」  「~~~~殺れッ!!」  水無月に怒鳴られて、彩極組の一派が立ち上がる。

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