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 どくん、と。  ミフユの体を内側から突き上げるほど、心臓が脈打つ。  「えっ?」  その一回を皮切りに、どくりどくりと動き始める。動悸が止まらない。  日頃、『ああ、いま自分の心臓鳴ってんな』なんて意識することはない。それだけ大きく脈動しているのだ。  「如月?」  突然胸を抑えて立ち止まったミフユに、伊吹が驚いて声を上げた。  「死ねやぁ!」  その隙を突いて、彩極組の構成員が襲いかかる。やや逸れたものの鳩尾を打たれ、その場に膝をつく。  「いっ……!」  「っおい、何やってんだ如月!」  反動でウィッグが落ちていく。拾う間もなく追撃が重ねられて、ミフユは防御態勢をとらされる一方だった。他の組員たちもまたたく間にミフユを取り囲む。  「――ったく……!」  伊吹が助太刀に入って団子状態はすぐぶっ飛ばされたが、急に戦力を失った伊吹側は劣勢に追い込まれていく。  「おらぁどうした!! さっきまでの勢いはよぉ!」  調子づいた集団に寄ってたかられて、伊吹は一打一打かわすのに手を焼いている。  その様子が目に入っていながら、ミフユは身動きがとれずにいた。  「如月!!」  「……っと、待って……!」  荒く呼吸しながら、自分の身体に起きた異変を探る。  くずおれたまま自身の掌を見つめると、血の気が引いた。  拳に残る、人の顎を砕いた感触。それが……不快でたまらない。  「おらあ!」  「っ如月、よけろ!」  動かないミフユは格好の餌食だ。敵の男が頭を狙って蹴り出してくる。が、ミフユは鞄をそいつの顔に叩き付けた。人の顔面から鳴ってはいけない音が響く。  「…………っ」  その音を聞いて、また胸が不快に締め付けられた。  (まさか……怖いの? そんなバカな――いや、待って)  混乱して頭が真っ白になる中、ミフユはひとつ気が付いた。  バクバクと脈打つ鼓動。  そうして心臓から性急に送り出される、沸騰した血液は――  ――下半身に集中していた。  (こ、れ、は……っ!)

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