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2−30
動けなくなったミフユの分まで補い、伊吹が次々と敵を昏倒させていく。相手を蹴り上げて、その勢いのままに駆け出した。
「水無月ぃいい!!」
「ヒッ」
クスリを後生大事に抱えてソファに座っていた水無月は、伊吹の剣幕に息を呑む。
隣で静観していたマフィアの男に情けなく縋りついた。
「りっりりり李 さん! こいつらを追っ払ってくれ」
「ワタシたちは巻き込まれただけヨ」
李と呼ばれた角刈りの男は、苦笑しながら『勘弁してくれ』とばかりに両手を挙げる。
水無月は慌てふためいた。
「李さぁん!? っ、じゃなきゃ取引はナシだ!」
「…………ナニ?」
李は、鋭い双眸を光らせてこちらを振り向いた。
「全く……」
やれやれと立ち上がった男に、伊吹が立ち向かっていく。
目にもとまらぬ速さで繰り出した拳を、李はいとも簡単に受け流した。
「なっ――」
そのまま、拳法らしきしっかり型に沿った動きで右腕を突き出す。
固く揃えられた指先が、伊吹の腹にめり込んだ。
「がっ」
身体を九の字に折って呻くうなじに、手刀が振り下ろされた。
「お話にナリマセン」
どさりと倒れ伏した伊吹を乗り越えて、李がミフユの前に立つ。
「どうした?
動かなければやられる。やるなら動きなさい。
――おそろしいカ? レディボーイ」
皮肉めいた笑みを浮かべた男は、うずくまるミフユを高みから見下ろす。
(くそ……体に力が入れば、こんな奴)
未だドクドクと疼く体は、むしろ熱さを増していく。
明らかに何か薬を盛られたとしか考えられないが、目の前の男がピンピンしているのを見るに毒ガスの類ではなさそうだ。
伊吹はどうだろうと視線を遣って、倒れ込んでいる彼を見て胸が痛んだ。
(アタシがちゃんと闘えていれば……)
「中途半端ネェ」
「!」
そんなミフユの心情を見透かしたように、男が嘲笑った。
「何もかも中途半端。
この世界に居座る根性もなければ、体も心もどっちつかずの。
そんなダカラ、守れナイ」
「な……痛 っ!」
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