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ミフユもぐにゃぐにゃ歪む視界で目を凝らして、はっとした。
掴み上げられた水無月の左側のこめかみから、赤い雫が伝っている。
(右から撃たれた?)
タイヤが破裂したかのような音は、ヤクザ者なら真っ先に銃声と考える。
「おい」
伊吹が声をかけても応答はなく、水無月はだらりと頭を下げた。
すぐ狙撃手がいるはずの方向を見ると、何者かがちょうど柱の陰に消えるところだった。
「――待て!」
伊吹は、屍を放って駆け出そうとしたが。
そこへ、スカジャンを返り血で汚した狗山が駆け寄ってきた。
「兄貴!」
「ああ?」
伊吹まで一直線に向かおうとしてミフユに気付き、垂れがちな目を丸くする。
「ミフユさん、大丈夫ですか」
「……うん、なんとか」
ふらつきながら立ち上がると、狗山が手を添えてきたが、やんわりと辞退する。いま触られると卒倒しそうだ。
「テメ、何油売ってたんだよ。役立たずが!」
「スンマセン。宮田とかいう奴が、一人のくせに五馬力くらいあるバケモンでして」
鳳凰組から八人応援が来ていたはずだが、結局敵のほとんどを伊吹が相手していた。そのことを詰められると狗山は申し訳なさげに頭を下げたが、「それよりですね」とすぐに頭を上げる。
「外にサツが集まりかけてます」
「んだと? つかそれどころじゃねえんだよ」
犯人を追おうとして、伊吹は舌打ちした。
「……ちくしょう。もう逃げられたか」
「状況がよく分からないまま深追いするのは危ねえっすよ。また今度にしましょう。
それに、外で見張ってた奴からの報告で、すぐ組織犯罪対策部 が来ます」
犯人が逃走したとなれば、ここに乗り込んだ警察がまず疑うのは現場に残っている人間だろう。
それを察して、傍観していた李が面倒くさそうに手を打った。
「やれやれ。今夜はお開きですネ。
大家、回家吧 」
自分の仲間に顎で指示して、その場を立ち去ろうとする。
しれっと【禁じられた果実】が入ったケースを持ち帰ろうとしたのを、伊吹が引き止めた。
「おっと。これはアンタのじゃねえだろ」
ミフユは朦朧とする中で、ヒヤヒヤしながら様子を見守ったが、李は取りあうことなくあっさり引き下がった。
「……フン」
鼻を鳴らし、マフィアの一行は裏口から出て行く。
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