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 「俺たちもさっさと退散するか」  伊吹は麻薬の入ったケースを部下に持たせて、立ち去ろうとする。  「おい、如月」  ついでにミフユに目をやり、声をかけてきた。  ……未だに動悸は止まらない。  どくん、どくん、と――逸ったり停まったり、不整脈のようにミフユの体を苛む。  「歩けるか」  いつの間にか隣に立っていた伊吹に、肩を叩かれた。  「っ!」  (やっば…………!)  途端にぞくぞくと悪寒が駆け抜けて、思わずその場にうずくまった。  「如月!?」  伊吹が触れたところだけ神経が剥き出しになったみたいに熱い。  胸を抑えて荒い呼吸を繰り返していると、背中をさすられる感触があった。  ミフユを気遣っての行為に、また『あの』感覚を呼び起こされる。  「…………っ!」  伊吹に掴まって立とうとしたのが、がくんとバランスを崩してしまった。  倒れかけたのを腕を掴んで引き戻されて、自然と抱き着くような体勢になる。  「何があった?」  「……なんか盛られたみたい。  あの、バイアグラとかそっち系の」  「はあ!?」  驚愕に目を見開いた伊吹の視線が、つつつ、と下に下がっていく。  「おま……スカートにテントを張るな」  「ごめん。  バイアグラっつったけど、あれの数倍強烈で……違法なヤツだわ、絶対」  「救急車呼ぶか」  「でも、先にここ出なきゃ」  警察に捕まってしまう。  自らの足で歩くため、ミフユは自分を支えていた伊吹の手を剥がそうと握って――――  ――――その手をまじまじと見下ろした。  「バカ」  「あ!? さんざ助けられといてンだその言い草はっ」  事態が一歩悪化した。  「アンタも、熱いじゃない」  「え」  ぽかんとした次の瞬間に。  伊吹の顔がぶわあっ、と赤くなっていった。  「は……? なんだ、これ」  「ちょっと。ちょっとちょっとちょっと」  薬を盛られたのは自分だけじゃなかったのだ。  「っあ」  「伊吹ちゃんっ!」  不調を自覚したとたんに力が抜けて、今度は伊吹が逆にもたれかかってくる。

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