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伊吹を引きずりながら店を出ると、外は野次馬で混み合っていた。さいわいまだ警察は到着していない。
人を掻き分けながら車を探すが、なかなか見つからなかった。
「狗山! 車どこ!?」
「わ、すみません、もうちょっと先に。目立たない所に停めてます」
そう言って狗山は数メートル先の曲がり角を指差す。半分意識のない伊吹を抱えながらでは、えらく遠い。
「っだぁああ、クッソ!」
ミフユは二人分の体重をずるずると引きずって、角まで歩いていった。
「ちょ、開けて! 早く!」
「分かりましたっ」
道を曲がり、ようやく路駐してあった黒のバンを見つけた。
ドアのロックが解除されると、雪崩れ込むようにして後部座席に入った。続いて狗山が運転席に乗り込む。
「と、共倒れするかと思った……」
心臓は収まるどころかさらに鼓動を速めて、息も上がる。
伊吹も顔を赤くしたまま苦しそうにしているので、狗山は心配そうに振り返った。
「病院に向かいますか? 伊吹さん、ぐったりして……」
「アタシの店までよろしく!」
「ええっ?」
「一番近いからっ」
仕方なくミフユの言う通り車を発進させて、夜の道を走り始めた。
「何かしくじったんですか?」
二人分の荒い息が響く中、狗山がバックミラー越しに訊ねてくる。
「調査自体は……うまく、いったわよ。
彩極組が【禁じられた果実】を流してる証拠は、写真の通りばっちり。けど水無月が誰かに撃たれて……」
どくどくと逸る心臓を抑えて唸る。暑いのでシャツの襟元をゆるめた。
それでも体が熱を帯びて、とりわけ下半身に血が集中していく。
ミフユのそこは、痛みを感じるほどに存在を主張しはじめていた。
これは――媚薬だ。
(……まずいのは、こんな近くに伊吹ちゃんがいることだ)
「兄貴は、意識がないんですか?」
「二人して何か盛られたみたいでね……ヤマを越えれば落ち着いてくると思うけど、伊吹ちゃんは薬物もお酒も、あまり強くないから」
肩で息をしている伊吹を、支えるように抱き締めてやる。
少しでも楽になればとブラウスのボタンを一つ外してあげたところで、またあらぬ衝動が突き抜けた。
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