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(ていうか、昨日のことはなんとも思ってないのかしら……)
確かに、昨日のアレは薬で無理やり引き起こされた反応だったわけだし、ギリギリのところで挿入までは至らなかったのだから――セーフ、と言えなくもない。
のかも、しれないけれど。
「はあ……薬の影響とはいえ、最悪だわ」
「おい、そんな凹むな」
ベッドに沈みこんで枕に顔を埋めるミフユに、呆れた声がかけられる。
「傷物にされたわけじゃなし。されたのは俺だ」
「なんでアンタはそんな堂々とできんのよ……」
平然と言ってのける伊吹にぼそぼそ言いながら、ちらりとその顔を見やる。
完璧な線を描く横顔。
高校時代からずっと、見つめ続けてきた、尊い形だ。
「お前がなんでそんなに落ち込むのか分からん。男同士だろうが」
虫に刺された位にしか思ってなさそうな伊吹に、脱力感に覆われた。
「あんたね……なんでアタシが組を離れたと思ってんのよ。……これじゃ、意味なかったじゃない」
――あのまま伊吹の傍にいたら、手を出しそうだった。
――だから、離れたのに。
そこまで口にする前に、『あっ』と口を手で覆った。
「え?」
すいすいとスマホを操作していた伊吹の手が、止まる。
丸くなった目に見つめられて、ミフユは自分の失言に気付いたが、もう訂正のしようがなかった。
「『組を離れた意味がなかった』って…………
どういう意味か訊くほど、鈍感じゃねえぞ俺は」
伊吹の顔が硬直していく。
八年もあれば彼への想いなんてそこそこにどうでもよくなっていたはずなのに、その顔を見て苦み走り、引き攣った笑みを浮かべた。
「アタシは、これ以上伊吹ちゃんのそばにいたら、きっと強引な手に出ちゃうと思ったから……」
(待て。これを言って、何になる?)
伊吹とは、麻薬の一件が片付くまでの関係だ。
もう時間が八年前に戻ることはない。
腐りかけたこの気持ちを今さら本人に伝えたところで、今後の邪魔にしかならないだろう。
「ごめん、今のナシ。忘れて」
「おう…………」
早朝、二人裸で迎えた気まずい朝。
結局、昨日深夜の出来事はお互い『忘れよう』ということで決着がつき、それ以上この話題に触れることはなかった。
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