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第三話:ボロアパートとワンピースと“アタシ”

 ベッドの上で裸二人。  お通夜モードで沈黙していると、気まずい空気をどうにかしようと思ったのか、伊吹が話題を変えた。  「遥斗ってのは、もともと彩極組系列の店にいたホストなんだよ」  「そうなの?」  ミフユが話に乗ると、ああ、と頷きが返ってくる。  「元は、あいつらの店でナンバーワンやってた。  それを二年前、【EDEN】の支配人が引き抜いたんだ。  このことで彩極の奴らとはかなり揉めたが――結局、遥斗はうちに来た。  だが、そのとき野郎がホントは彩極と切れてなかったとすれば……未だに繋がっていても、おかしくはない」  横顔を見つめるミフユに対して、伊吹は視線を前に向けたまま淡々と説明した。  「そういえば、昨日の件で一個気になることがあったんだわ」  「なんだ?」  気もなさそうに窺ってくる伊吹に、昨夜のことを思い返しながら答える。  「水無月が撃たれる前よ。  あの男、しきりに『俺じゃない俺じゃない』って繰り返して、何か言おうとしてたじゃない。  『俺は違う』って……どういうことかしら?」  伊吹がこちらを向いて、同調する。  「ああ、あったな……あんときゃただの命乞いかと思ったが。  そういや、『クスリを流してるのは俺じゃなくて』……? つってたら撃たれたんだよな」  「つまり、水無月は本当は【禁じられた果実】の元締めじゃなくて、黒幕が別にいたってことじゃないの?」  はっとした顔で、伊吹が見つめてくる。  「あいつは口封じで殺された?」  さっきまでのよそよそしさはどこかに吹っ飛んでしまったようで、ずいっと体を寄せてきた。  「ありえるな。  ただ問い質そうにも、野郎おっ死にやがって」  「助からなかったのね」  スマホを振って、伊吹が「狗山から連絡があった」とつけ足した。  「とすると、あの胡散臭いホストが足がかりってわけだ」  「胡散臭くはないわよ、好青年っぽかった!」  「そこに突っかかってくんな!」  ともかく、と状況を整理したミフユは、ため息をつく。  「すると、アタシの復讐もまだ終わってないってこと?  やだ、これ以上ゴタゴタに首を突っ込むのは――」  ミフユの声を遮るように、バァン!と勢いよく玄関の扉が開く音がした。  「ママ~! ちょっとぉ、いるぅ!?」

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