62 / 191

3−3

 このまま質問攻めに遭いそうな勢いだったが、伊吹は問答無用で全員を追い出すと、ミフユを振り返った。  「なんか服貸せ」  「着てきた服は?」  「バカみてーなスカートしかねぇんだよ、男物ならなんでもいいから貸せ」  そう言うので、クローゼットから自分のパーカーとジーンズを出してやったが、ふと思い留まる。  「伊吹ちゃん、ズボンの丈合わないんじゃないかしら」  「お前と身長変わらねえだろ! それでいいから貸せっ」  うーんと首を捻りながら服を渡した。  パーカーはともかくとして、ジーンズに足を通すと……。  「…………なんでさほど背ぇ変わんねぇのに足がこんなに余ってんだよ!」  「足の分だけ差が出てるんじゃない?」  「うるせぇ! もう短パンでいいから寄越せ!」  注文の多いヤクザ様だが、ミフユが持つ唯一と言ってもいいハーパンを貸してやると、顔を顰めながらも渋々履いていた。  「ったく、なんで俺がこんなアホみてぇな蛍光黄緑の短パンを……」  「アンタ、お風呂入ってかなくていいの? 貸してあげるわよ」  ミフユも柄シャツに白いズボンを合わせながら尋ねる。伊吹は拗ねたまま答えた。  「結構だ。帰ってから入る」  「そう?」  「やることがあんだよ。体からクスリが抜けねえうちに、血の成分を調べなきゃなんねえ」  それもそうだ。  クラブで【禁じられた果実】を盛られたというのは、二人の症状をもとにした予想に過ぎない。実際は、まったく別の薬を盛られていた可能性もあるのだ。  「調査結果が出たら連絡する。詳しいことが分かるまで、酒控えてじっとしとけ」  「心配してくれてるの?」  伊吹は、眉の筋肉を寄せられるだけ寄せた。  すたこらと歩いていく彼を、「ねえねえ」と肩越しに覗く。  うざったそうに腕を振りながら、伊吹は部屋の外で聞き耳を立てていたキャメロンたちを押しのけ、家を出て行った。 ・・・  ゆうべのこともあり、伊吹はミフユと直接顔を合わせるのを避けるかと思ったが、意外にも翌日の夜にまた【大冒険】を訪れた。  「来ると思わなかったわ」  「あ? そりゃ来るだろ。ほら、検査結果」  開店から数時間後にやって来た伊吹は、紙を一枚カウンターに置いた。

ともだちにシェアしよう!