63 / 191

3−4

 「なにこれ」  二つに折り畳まれたそれを広げてみたものの、見方が分からなかった。  何かの表のようだが、説明文が載っていない。  「ま、知り合いの医者に急ごしらえで作らせた書類だからな。見やすくはねぇが」  そう言うと、伊吹は紙に記された成分名を一個ずつ指していって、「これが大麻」「その下が合成麻薬を表す」と解説していった。  「この一覧によれば、大麻らしき成分は検出されてない。  が、MDMAと覚醒剤の成分が含まれてたって結果だ。  これは【禁じられた果実】の特徴なんだとよ」  「じゃあアタシたち、本当に飲まされてたのね」  「ああ。しかも、MDMAの成分に至っちゃ死ぬスレスレの血中濃度だったらしいぜ。飲んでから一晩経ってんのによ」  「……つまり、相手は殺す気で来てたってわけね……」  そういうことになるな、と認めながら、伊吹はあっさりとしていた。  「ま、お互い今のところ後遺症がねぇのは不幸中の幸いだ。  それで水無月の件だが、こっちは狗山に探らせて――」  「ちょっと、お二人さん」  ふと、カウンター席に座っていた伊吹に陰が差す。  「てっ、てめぇいつの間に俺の後ろに!」  「お邪魔するわよ」  伊吹が振り向いた先で、空いたグラスを持ってずずん、と立ち塞がったのは、今日もメロン風のドレスに豪快なカラフルアフロが冴え渡るキャメロンだ。  「あらあら、私もちょっとそこのお二人にお話があったのよ」  続いて、モモが伊吹の隣を陣取る。さらにその反対側を塞ぐようにアキが座ってきた。  伊吹にまだ内密な話があるのは明らかだったが、そうは卸さないのがオネエたちだ。  「アンタたち、ちゃんと接客してなさいよ」  人払いしようとしたミフユだが、店を見回すとたまたま客がいなくなった様子だ。  「ママ」  ちぃっと舌打ちするミフユに、ジョッキのビールをドンッと置いて凄んだのは、パピ江だった。犬のパピヨンさながらのツインテールが決まっている。  「ママ、アタシたちに何か言うことがあるんじゃない?」

ともだちにシェアしよう!