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伊吹と出逢った経緯や鳳凰組に入ることになった理由などは簡潔にまとめて、かいつまんで今回の事情を語った。
途中で他の客が入店することもあったため、彩極組、水無月、李といった特定の名を挙げるのは避けたが、現在ミフユがモリリンのために【禁じられた果実】を探っていることなどを説明した。
「……と、まあ、ざっくり言うとこんな感じね」
話を打ち切って、キャメロンたちを見渡す。
どんな目で見られるか正直怖かった。
けれど、思ったよりみんな冷静にミフユの話を受け止めている様子だ。
「えっと。
とりあえず、ママ、今はすっかり組との縁は切れてるのよね?」
パピ江が訊ねてきたので、「もちろん」と返す。
「八年前にとっくにね」
その証拠に、と静観していた伊吹のほうを見やる。
「アタシが『ミフユ』になったのはこの店に来てからだから、伊吹ちゃんはオネエのアタシのことを全く知らなかった。
だからここに『如月美冬』を探しに来たのよ」
「こいつは、俺にも言わずに勝手に組を抜けたんだ。それっきり何年も連絡がつかなかったんで、組長 からは破門扱いにされてる」
伊吹が重ねて証言したことで、パピ江は納得した様子だった。
だが、重ねて質問される。
「どうして組を抜けたの?」
「別に、とんでもないことやらかして逃げたとかじゃないのよ? ……これは、アタシ個人の問題」
以前なら伊吹がここで食ってかかってきていただろうが、今は視線を逸らして煙草を咥えている。しらじらしい。
その横顔を見ていると、そういう話 にはやたら察しのいいオネエたちが、『ああ~』という顔をした。
「おい、こっち見てんじゃねぇ。さっさと話をまとめろ」
不機嫌そうな伊吹に言われて、ミフユは改めてパピ江たちに視線を戻した。
「こういう事情なの。だから、夜のお店やお客さんからもし怪しい薬を渡されても、絶対に手を出さないでね。
それから……アタシがどんな奴か、分かってもらえたかしら」
目を伏せて、消え入るような声で呟いた。
「ずっと黙っててごめんね。なんで隠してたか、はね」
冗談でごまかしたくなるのを抑えて、素直な気持ちを伝えた。
「『元』なんて言ったってヤクザはヤクザだもん。
現に、いまだにクスリやら何やらが付き纏ってきて……きっと怖がられるって思って。
アタシは、アンタたちに怖がられるのが、怖かった」
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