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 ごめん、ともう一度謝って、頭を下げた。  「………………」  無言の間が続いて、不安が募っていく。  (幻滅されたかな。それもそうよね。  元ヤクザとなんて働けないって言われたら……仕方ないから、潔く辞めなくちゃ。  でもどうする……?  学はないコネはない、実はアウトロー時代のこまごまとした罪状で前科持ちなんて人間を雇う場所がどこにあるのかしら)  顔を青くしながらこれからの身の振り方について考え始めた頃、キャメロンが声を放った。  「ばーか」  「えっ」  つい顔を上げると。  いつもと変わらない彼の笑顔がそこにあった。  「言ったじゃない。ママが昔どこで何やってたって構わない、って」  態度がまったく変わっていないことに驚愕する。普通は、少し敬遠したり、腫れものを扱うように接したりするものじゃないんだろうか。  「で、でも、やってたことの次元が違うでしょ。暴力上等みたいな野蛮人とは一緒にいたくないのが常識でしょ」  「私たちに常識なんて求めてくるのがお馬鹿さんって言ってんの」  他の三人もうんうん頷いている。  こちらを見る目に軽蔑や恐怖といった感情はなく、ただ呆れているように見えた。  「特にキャメロンちゃんとアタシなんて、ママより年上なのよ? そのぶん人生経験豊富だし色々やってきてるんだから」  モモが続き、くすりと笑った。  ミフユの前にいるのは、メロンやパピヨンからお姉様系、可愛い系女子まで、色とりどりの格好をした、個性豊かな仲間たちだった。  ――そうだ。ここにいる彼ら彼女らにだって、それぞれの過去がある。  「特に二丁目のバーにいるオネエなんて、皆とんでもない秘密のひとつやふたつ持ってますよ」  パピ江が言う。  そうだ。  ヤクザの世界ですら明かせなかった秘密を、自分はここで『ミフユ』として堂々と曝け出してしまえている。この界隈は時として、極道よりもぶっ飛んでいる。  「今さらそんなことで引かない。  アタシたち、アンタのこと好きだもん」  「そうですよ! 私たちはミフユさんが大好きですから!」 (ホントに馬鹿だわ。アタシ、どうしてみんなのこと信じられなかったんだろう)  「……モモちゃん、アキちゃ――――みんなぁああ」  思わず涙腺が緩んでしまい、グスグス言いながらカウンターを飛び出したミフユは、ひっしと五人で抱き合った。  「オネエが五人も団子になりやがって……ったく」  いつの間にかすっかり蚊帳の外だった伊吹が、めんどくさそうに耳をほじりながら口を挟む。  「よし、話は終わったな。じゃ俺はまだコイツに話すことがあっから、お前ら散れ」  が。  「それはそうとして……」  「あ?」  キャメロンがくわっと括目した。モモも目を見開く。  「昨日の朝は何だったの!?  ママと師走さんはどこまでイッたの!?  ヤッたのヤッてないのどっちなのお!!?」  「そうだわ! 事の次第によっては今夜は特別メニュー・お赤飯よぉおおお!!」  「てめぇら結局ソッチの話じゃねぇか!!」

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