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伊吹はぐびぐびと酒を呷りつつ、流暢に語る。
「高二になる頃には三年のトップ潰して、『東高の裏番』とか呼ばれてたっけな。俺が表だからさ」
「まああ、地元じゃ負け知らずってヤツね。アタシ修二派」
ふふんと満足げに鼻を鳴らす伊吹に、こっちは羞恥で死にそうである。
どうしてこう、ヤクザって人種は威張りたがりの目立ちたがりなのか。
学生時代の武勇伝なんて、三十路になって掘り返されたらまともに顔も上げられない。
「それで、自分の町じゃすることなくなって退屈だったから、如月と授業フケてバイクで隣町まで行ってよ。
夜まで遊んでたら、そこの半グレどもに目つけられてな。
あやうく殺されるかと思ったけど、如月がまたバカ強くて――」
「あらあら。師走さん、ミフユママのこと大好きだったのねぇ」
「ごふっ!!」
グラス片手に上機嫌に語っていた伊吹に、モモが言った。
伊吹が飲んでいた焼酎を詰まらせて激しく噎せる。その向かいでミフユも飲み物を噴き出しかけた。
「だっ、ば、違ぇよ! なんだ大好きって!」
「ええ? だって目キラッキラさせてママの話ばっかりするんだもの。ねえ?」
モモに目配せされたアキがこくこくと頷く。
「はい!
なんだか、すっごくミフユさんのことが自慢で、愛があるんだなっていうのが伝わってきます!」
「ばか、お前……」
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