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 げほごほと咳き込む伊吹におしぼりを差し出しながら、キャメロンが笑う。  「そうそう。もうお御馳走さまって感じ」  「ヘンな意味じゃねえってのに……昔のこいつには男惚れできる要素があったってだけで」  どうにか調子を取り戻したミフユは、自分が零した酒を拭きながら息をつく。  「そうよ。ていうか伊吹ちゃんは昔のアタシを買い被りすぎよ。  裏番なんて、そのへんのモヤシが勝手に言ってただけだし。  アタシはそんなに強くもなければ、色々語られる価値もない」  「でも、師走さんこんなに高く評価してるのよ? ママのこと」  きょとんとするキャストたちに、もう一度ため息をつきたくなった。  「……男見る目ないのよ、伊吹ちゃん。出世しても舎弟はあんまりとらないほうがいいわよ」  「ああ? んだと?」  何か言いたげな伊吹を無視して、パンパンと手を叩いた。  「はいはい、終わり! 無駄話はおしまい!  いい加減お仕事戻りなさい。そろそろお客さんが増えるわよ」  これ以上話を聞き出すのは無理だと判断したのか、キャメロンたちはハァイ、と渋々持ち場に戻っていく。  彼らの背中を見送りながら、ミフユは呆れて肩をすくめた。  「まったく。そんな騒ぐようなもんじゃないってのに」  すると、すぐ傍から笑い声が聞こえてきた。  布巾を持って、カウンターの清掃に入ったアキだ。  「でも私、ミフユさんと師走さんの関係が羨ましいです」  『はあ?』  二人同時に首を傾げて、伊吹が毒づく。  「大した関係じゃねえよ。腐れ縁だっつの」  「そうそう」  同調するミフユに、アキが微笑を見せた。  「そうやって言い合えるほど仲が良いってことじゃないですか」  アキは手際よく拭き掃除を済ませると、辺りを見回して作業が残っていないか確認する。  空いたグラスなどがなく、他の客にキャストがちゃんとついているのが分かると、キッチンに戻ってミフユの隣に並んだ。  「ミフユさんたちを見てたら、思いますもん。  どうしたらお二人みたいにうまくやれるのかなって」  その言い方に引っかかる。  「アキちゃん、何か悩みがあるの?」  「おい、如月」  伊吹が咎めるように視線を送ってくる。あっちは二人きりで彩極組や水無月の件について話したいんだろうが、ここでアキを追い払うのも不自然だ。  「まあいいじゃないの、少しくらい。  アンタ、こないだアキちゃんにお化粧手伝ってもらったでしょ」  「ぐっ……」  例のホストクラブ潜入作戦のことだ。  極道なだけあって義理堅い性分の伊吹は、「こっちは忙しいっつーのに」とか何とか言いながら大人しくなった。  「アキちゃん。アタシはもうすでに散々プライベートなことほじくり回されたから、今度はアンタがあけすけに自分語りしたっていいのよ」  「いいんですか?」  「うん。経験だけは豊富なおっさん二人が聞いてやるわよ」  「誰がおっさんだ」  テーブルに頬杖をついてかったるそうにしている伊吹も、茶々を入れつつ、一応はアキの動向を窺っている。  二人の顔を見比べた後で、「あの」と小さく口を開いたアキは、伊吹の顔をちらちらと見ながら、頬を染めた。  「あの……師走さんみたいな男性から見たら、やっぱり私みたいなのは気持ち悪いですか?  抱けないですか」  「は?」

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