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3−12
まるで伊吹に気のあるような言い回しである。
二人が面食らうと、アキははっと小動物系の目を見開いて顔を赤くした。
「アキちゃん?」
「ちっ、違います! 誤解です! 師走さんじゃなくて、師走さんみたいなストレートの男の人って言いたかったんです!」
狐につままれたような顔をしていた二人は、なるほどそういうことかと胸を撫で下ろす。
が、ミフユはまた瞠目した。
「って、アキちゃん恋したの!? 相手ノンケッ!?」
「ミフユさん、大声で言わないで……!」
遠くの方で他のオネエ達がぴくりと反応したが、向こうは向こうで接客中のため、突っ込んでは来ない。
ただ、閉店後にはさぞや詰められることだろう。
「あらごめんね。びっくりしちゃったもんだから。
そっかぁ、アキちゃんが恋かぁ。なるほどねぇ……」
ふーんと興味深げに頷きながら、ニヤケが止まらない。
アキは恥ずかしそうにしつつ、伊吹の顔を窺った。
「えと……だ、だから、ずっと師走さんにお伺いしてみたかったんです」
「だってよ、伊吹ちゃん。答えてあげたら?」
耳まで赤く染めて恥じらうアキにたじろぎながら、伊吹は「あ、ああ……」と考え込む。
昔から考え事は嫌いで、学校の授業にも集中できなかった男だが、今はこれまでにないくらい真剣に考え込んでいる。
ミフユは目だけで『傷付けるような回答すんじゃねぇぞ』と圧をかけたが、それがなくても大丈夫だったかもしれない。
(妙なとこ真面目よね……)
やや見直してしまうほど長考したすえに、伊吹は煮えきらない口調で言った。
「俺だったら、いくらパッと見女でも、性別男な時点で抱けねえ。けど、人によるだろそれは。スキモノならイケんじゃね」
「伊吹ちゃん、言い方」
考えに考えてそれかとツッコみたくなるが、この男なりに言葉を選んだに違いない。ただ、もう一声、と口を挟むと、伊吹は困惑気味に言い直した。
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