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「はぁ……?
いや人によるけど、正直おまえ――アキ? アキはこっちが戸惑うくらい女っぽいし……女的な魅力あると思うし、自信もっていいんじゃね?
べつに気持ち悪かねえよ」
「そうですか」
歯に衣着せぬ伊吹の物言いに、アキが傷付いた様子はない。
ただ淡々と言葉を受け止めて、ミフユの方を見つめた。
「すみません、突然こんなこと。
私――手術を受けるかどうか迷っていて」
「手術? どっか悪いのか」
苦笑して首を振るアキの代わりに教えてやる。
「アタシらの間で『手術』っていえば、性別適合手術のことよ。
アキちゃん、本気なの?」
「はい。
もう五年ここで働かせていただいてますし、昼にも別のお仕事をしてるから、貯金が貯まったんです」
「昔から手術受けたいって言ってたものね」
男性同性愛者とひとくくりにされがちな集団の中にも、さらにいろんな指向の人がいる。
男の姿で男を愛したい人、男に愛されたい人。
女の姿でそうしたい人。
細かい分類をしていけばきりがなく、何にも当てはまらない人もいるが、アキは女性として愛されたい。
「そう簡単な話じゃないのは承知よね」
ミフユの問いかけに、アキはもちろん、と強く頷く。
「他の店の子にもいましたから。
術後にホルモンバランスが崩れて、鬱になっちゃった子とか。やっぱり男に戻りたいって子もいた」
「そうよ。痛みも相当らしいし、メンテナンスもずっと続けなきゃならないし」
「手術ってそんな大変なもんなのか」
門外漢の伊吹は目を丸くしている。
「そりゃそうよ。ナニ切って穴開けるんだから」
具体的に想像したらしく、サーッと青ざめていく。一瞬手で息子を庇っていた。
「身体にとっては大きな傷ができたようなものだから、自然治癒で開いた肉同士が癒着するし。それをまた広げ直すのにも苦労する」
「そうまでして開ける意味あんのかよ。ガキができるわけじゃあるまいし」
「そこは本人の気持ちの問題だけどさ。
ただ、戸籍を女に変えたかったら、ちょん切らなきゃいけないの。自己申告で女になりたいですってだけじゃ法律上認められないのよ」
軽くはない代償を払ってでも女になりたい。そう願う彼女らの意志は固い。
「……けど、そんな大手術なら命にも関わるんだろ」
「そんなリスクを背負ってまで手術を受けたい理由が、アンタにはあるのよね」
「はい」
視線をやると、アキは躊躇いなく頷いた。
「それは、彼のため?」
こくり、と肯定が返ってきた。
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