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 「女性の体にならないと、結婚もできないですから。できれば、今の彼と入籍までしたくて」  「あら! もうお付き合いしてたのね」  「はい」  へえええ、とわざとらしく相槌を打って、ミフユはニヤニヤとアキを小突いた。  「やるじゃない。相手いくつ? かっこいい?」  「噂好きのババアかてめえは」  伊吹はじろりと睨んできたが、アキはぽぽ、と頬を染める。  「六つ年上の人です。すごく格好良くて……私にはもったいないくらい……」  「そんなことないわよお、アキちゃん可愛いもの!!」  きゃっきゃと盛り上がる二人に、伊吹が割って入る。  「けどお前、さっき俺に自分は抱けないかって訊いたじゃねぇか。  それはどういう意味なんだよ」  伊吹の問いかけに、アキが俯く。  「アキちゃん、彼とは付き合ってどれくらいなの?」  ミフユは、薄々アキの悩みに気付いている。  しかし直球で尋ねることは避けて、別の質問を投げかけた。  「こないだ、半年記念日でした」  「もしかして、あんまり進んでない?」  アキはぽそりと、「一回もしてないんです」と呟いた。  「キスはしてくれるんですけど。……はぐらかされてるなって。そう感じるときがあります」  「成人したカップルが、半年進展ないってのはねえ」  伊吹が枝豆の皮でアキを指す。  「ああ。お前の男が、元は俺と同じ女好きってわけだ」  「はい。私の前までは、女性としか付き合ったことがないって言ってました」  (そりゃ、不安にもなるわよねぇ)  それで、伊吹に実際のところがどうなのか訊ねてみたと。  「あの人は、私のこと『女性として愛してるよ』って、言ってくれるんですけど……。  やっぱり、本物の女の人とは違うから」  「そりゃいくら顔が可愛くてもなあっ痛ってえ!」  いらんことを言いかけた伊吹の目にレモン汁を絞り飛ばしながら、なるほどねえ、と頷く。  「それで手術を受けたいのね」  ふうんと顎に手をやり、考え込む。  伊吹が目を擦りながら言う。  「そんな大事なことを、他人のためになんか決心していいのかよ。別れたときに後悔しねえか」  ミフユはアキとの出会いを振り返り、この子も難儀な子だったのよね、と感慨深く思った。

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