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3−14
「女性の体にならないと、結婚もできないですから。できれば、今の彼と入籍までしたくて」
「あら! もうお付き合いしてたのね」
「はい」
へえええ、とわざとらしく相槌を打って、ミフユはニヤニヤとアキを小突いた。
「やるじゃない。相手いくつ? かっこいい?」
「噂好きのババアかてめえは」
伊吹はじろりと睨んできたが、アキはぽぽ、と頬を染める。
「六つ年上の人です。すごく格好良くて……私にはもったいないくらい……」
「そんなことないわよお、アキちゃん可愛いもの!!」
きゃっきゃと盛り上がる二人に、伊吹が割って入る。
「けどお前、さっき俺に自分は抱けないかって訊いたじゃねぇか。
それはどういう意味なんだよ」
伊吹の問いかけに、アキが俯く。
「アキちゃん、彼とは付き合ってどれくらいなの?」
ミフユは、薄々アキの悩みに気付いている。
しかし直球で尋ねることは避けて、別の質問を投げかけた。
「こないだ、半年記念日でした」
「もしかして、あんまり進んでない?」
アキはぽそりと、「一回もしてないんです」と呟いた。
「キスはしてくれるんですけど。……はぐらかされてるなって。そう感じるときがあります」
「成人したカップルが、半年進展ないってのはねえ」
伊吹が枝豆の皮でアキを指す。
「ああ。お前の男が、元は俺と同じ女好きってわけだ」
「はい。私の前までは、女性としか付き合ったことがないって言ってました」
(そりゃ、不安にもなるわよねぇ)
それで、伊吹に実際のところがどうなのか訊ねてみたと。
「あの人は、私のこと『女性として愛してるよ』って、言ってくれるんですけど……。
やっぱり、本物の女の人とは違うから」
「そりゃいくら顔が可愛くてもなあっ痛ってえ!」
いらんことを言いかけた伊吹の目にレモン汁を絞り飛ばしながら、なるほどねえ、と頷く。
「それで手術を受けたいのね」
ふうんと顎に手をやり、考え込む。
伊吹が目を擦りながら言う。
「そんな大事なことを、他人のためになんか決心していいのかよ。別れたときに後悔しねえか」
ミフユはアキとの出会いを振り返り、この子も難儀な子だったのよね、と感慨深く思った。
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