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3−15
アキと出会ったのは、彼女がまだ中学生だった頃だ。
五年前のある夜、仕事が休みだったミフユは新宿に繰り出していた。
そして、たまたま通りがかったホテル街で、会社員風の男と歩いていたアキを見かけたのだ。
男は、彼女――といっても、当時は『彼』に見える風貌だった――を、明らかに子供だと分かっていてホテルに連れ込もうとしていた。
虫唾が走りながらそんな男の股間を蹴り上げて、ミフユはアキを連れて逃げた。
「アタシはね、アキちゃんは女の子に変わっても幸せに生きていけると思うのよ」
「ミフユさん」
『男と女が同居する自分を愛してやれ』と言ったのは自分だが。
ミフユは、アキの意志が半年やそこらで固まったものではないと分かっている。
「アンタは、出会ったときにあれだけ『女の子になりたかった』って叫んだ子だもの」
店まで逃げて、アキにあんな変態親父を相手にするなと大説教したとき。
なぜ自分を傷付けるような真似をしたのかと問いただしたら、アキは泣きながら絶叫した。
どんな相手でもいいから、女の子として見てほしかった。
私はずっと、ずっと、女の子になりたかったの。
そう言って泣きじゃくる。
だから『そんなに女になりたいならまともに稼いで自己投資しろ』と言って、店で彼女を雇い、面倒を見ることにしたのだ。
思い出し笑いをすると、過去の自分が蘇ったのかアキが赤面する。
「だから、きっと後悔はしないと思う。彼と出逢う前から考えてたことなんだし」
「そうですね。どのみち、いつかは実行すると思います」
そんな話をしている中、伊吹が豆をつまみながらアキの顔をじっと見つめた。
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