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 「つってもお前、いま二十そこそこだろ。急がなくてもいいんじゃないか。  女として愛されてえ、って言い分はわかるけどよ。  すぐにでも女の体が欲しいかもしんねえが、少しは迷いがあるからこうして相談してるんだろ?」  「……はい」  黙り込んでしまった彼女に、ミフユは甘いマリブミルクを作ってやった。  従業員の悩み相談のときには決まってサービスする酒だ。  そのカクテルをアキは一口啜って、ほ、と息を緩めた。  「アタシは全面的にアキちゃんを応援するけど、伊吹ちゃんの言ってることも正しいと思う。大人の意見だわね」  自分の肩を持つのが意外だったのか、伊吹はちらりとミフユを見てからアキに視線を戻す。  「金さえありゃ、もう少し年を取ってからでも手術は受けられるんだろ。それより……」  何と言ったものか、みたいな目で見てきた伊吹に変わり、「もっと根本的なところに問題があるんじゃない?」と諭すような口ぶりで訊ねた。  「関係が進まなくてアキちゃんが不安がってることを、相手の人は知ってる?」  「……分からないです。だけど、気付いてるとしてもそこまで深刻には受け止めてないかも」  伊吹が眉を顰めた。  「てめえの女が決死の覚悟で体イジるかイジらねえかって岐路に立ってんのに、何ボーッとしてやがんだそいつは。  一回ここ連れてこい、俺が根性叩き直してやる」  「アンタね、急に兄貴肌発揮してんじゃないわよ」  伊吹がタイマンで説教なんてしたら通報モノだろう。  呆れるが、アキは楽しそうに笑った。  「師走さん、優しい」  「別にそんなんじゃ」  伊吹は視線を逸らしながら後ろ頭を掻いて、ぼそりと呟いた。  「俺は、はっきりしねえ男が嫌いだってだけだ。しかも他の男にこんな相談させる奴がな」  薄っすらと頬を赤くする伊吹に、こっちは急速に臓腑が冷えていく。  (いや、『大冒険のママ』としてはキャストのことを思いやってくれて嬉しいんだけどね。なんだかんだ優しいものね伊吹ちゃんは。  ……とは思うけどデレデレしちゃってまあ)  「な、なんだよ如月」  「え? なんでもないわよ。  ただ、口でなんてったって、アンタもうアキちゃんのこと女として見てるわよねって」  「見てねえよ!」  「いーや見てるわ。やだやだ、タイプだからって鼻の下伸ばしちゃって。ロリコン!」  「誰がロリコンだ!」  ヒートアップしかけたところで、アキが堪えきれずに噴き出した。  そこでハッと我に還って口論を止めた二人に、ひかえめな笑いを零す。

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