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「本当に羨ましいです。
お互いの思ってることを包み隠さず言えるなんて」
実際はそうでもないのよと言ってやりたいところだが、思うだけに留めておく。
「話が逸れたけど、大事な決断をする前に彼とちゃんと話し合ったほうがいいわよ。
ガワを変えれば幸せになれるってもんでもないし」
「ミフユさん……」
ね、と笑いかけると、アキは真剣な目で見つめ返してきた。
「でもアタシ、最後にはアキちゃんの選択を尊重する」
「ありがとうございます。
……もうちょっと考えてみます――彼と話し合って」
アキは笑って、仕事に戻っていった。
彼女が席を離れていくと、黙ってやりとりを見ていた伊吹が笑う。
「ヘマした舎弟のケツにドスの柄突っ込んで、渾身の力で蹴っ飛ばしてた野郎と同一人物だとは思えねーな」
「いちいち人の黒歴史を掘り返さなーい」
「ケッ」
伊吹はぐっと酒をあおって、空になったグラスを置く。
「よく分かんねえよ。男だ女だ、男が女だ」
「アタシは、伊吹ちゃんがこっちに歩み寄ろうとしてくれてるのが不思議よ」
「てめえが何考えてんのか知るためだよ」
酔いが回り、やや眠たげに緩んだ瞳がこちらを見つめる。
「再会してからこっち、俺にはてめーがさっぱり分かんねーよ。
見た目はそんな変わってねえけど。
シナ作るし、女言葉だし。グラサンだし」
「くどいわねえ」
「でもやっぱり、下の奴らから慕われてるとこは全然、変わんねえ」
ふと思考が止まる。
伊吹の顔を見返していると、ほんのりと頬があかくなっていた。ハイペースで呑んでいたからか。肌艶がいい。
「慕われてるなんて言い過ぎよ。アタシは、学校にいた頃も組にいた頃も、ずっと一匹狼で」
「そう思ってるのは自分だけだ」
「な」
据わった目で見つめられ、体が硬直する。職業柄、目力がある。
「戻ってこねえか、如月」
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