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「……戻る?」
突然振られたので、おうむ返しに訊いてしまった。
だが、考えるまでもなく答えが口をついて出る。
「お断りよ」
目を見開く伊吹に、言い聞かせるように告げた。
「伊吹ちゃん。
アンタの目的は、クスリの元締めをこらしめて流通をストップさせること。
アタシの目的は、モリリンの仇を討つこと。
お互いの目的が叶ったら協力関係はおしまいよ」
「なんでだ」
短く、零れ出たみたいに呟いた伊吹は、ショックを受けているように見える。
胸が痛まないでもないけれど。
「何度も言うけど、アタシはミフユだから。
如月美冬は死んだの」
そう言って笑ってみるが、職業柄作り笑いには慣れているはずなのに、やけに頬の筋肉が固く感じた。
組に戻ればまた伊吹の隣にいられるだろうが、そこに戻れというのは、普通の男に戻れと言われているも同然だ。
……なんでもない風を装って彼の傍にいろというんだろうか。気の置けない悪友のような顔で?
伊吹に対して抱いている感情を押し殺せというんだろうか。
それは……無理だと思う。
自分は『ミフユ』であるという、プライドもアイデンティティも失いたくはない。
はっきりとそう思って、ミフユは八年越しに自分の本音に気付いた。
(……アタシは……伊吹ちゃんを傷付けたくないから、この子から離れたとばかり思っていた。
けど、本当は自分が傷付きたくなかっただけなのかも)
にべもなく提案を却下された伊吹は、独り言のようにぼそりと零したのだった。
「……分かんねえよ。俺から見れば、お前はずっとお前のままなのに」
賑やかしいカラオケと皆の笑い声が響く中で、二人の間には重苦しい沈黙が落ちていた。
・・・
結局、きな臭い話をする空気にもなれずに伊吹が勘定を終え、外まで見送りに出た。
「水無月の件は、うちの組のもんが調査してる。また連絡事項があれば伝える」
「そうね。よろしく」
「如月」
さっさと階段を降りようとした伊吹が、ふと動きを止める。
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