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振り返った彼に、何かと思っていると。
「俺は如月に、高校ん時のお前みたいに、俺の相棒をやってほしい」
いつもより目線が下だからか、下手に出られているように感じる。
とはいえ、それに関してはたった今断ったばかりだ。
「だから、それは無理だって」
「わかってる」
凛々しい眉が寄せられて、つり目に迷いが生じる。視線が逸らされる。
――何が言いたい?
怪訝に思いながら言葉を待っていると、伊吹が目を逸らしたまま続けた。
「わかってっけど、それを望んでるんだ。
あの頃のお前は、俺の憧れだったから」
耳がやや赤くなっているのは酒のせいだろうか。
「あ、憧れって……」
突拍子もない話に、ぽかんとする。というか、昔の自分に嫉妬しそうになるという意味の分からない状態になっている。
「伝えたかっただけだ」
らしくないことを言って恥ずかしくなったのか、伊吹はごそごそとジャケットの中を探る。煙草は見つからない。
「……時間はいくらでもある。
待つから、考え直せ」
最後に諦めたように息をついた伊吹は、ズボンのポケットに両手を突っ込んですたすたと階段を降りていってしまった。
尊大な口調のわりに余裕なく。
「なるほどぉ……」
取り残されたミフユは、ぽつりと呟いた。
少なくとも『如月美冬』は彼にかなり好かれていたらしい。
友情とか信頼とかそういうベクトルで、だが。……決して恋愛的な意味じゃないが。
(……なーんかヘンなこじれ方してきちゃったわね、何かと……)
水無月の事件といい、伊吹との関係といい。
伊吹に振り回されることに関してはもう諦めモードで、さてどうしたものかと肩を落とすミフユだった。
・・・
それからの数日間、伊吹が直接店に赴いてくることはなく、たまに狗山や他の舎弟が事務的な報告をしに来る程度だった。
狙撃された水無月は死亡。
クラブ【EDEN】を荒らした件も含めて、警察は捜査に注力しているものの、まだ犯人を特定していない。
そして――先日また一件、鳳凰組の管轄下で【禁じられた果実】の使用者が出た。
流通が止まっていないということは、やはり水無月は薬物流出の元凶ではない。
犯人は、別にいる。
そのあいだ季節は十二月に入り、世の中は文字通り師も駆け回る忙しい空気に包まれていた。
「はーあ。なんだかやる気でないわあ」
そんな折、開店準備で店内の掃除をしていたキャメロンがふと立ち止まった。
見咎めたミフユが彼の肩を叩く。
「メロンちゃん、正月休みはまだ先よ。ちゃきちゃき動いて」
「分かってるわよお、ママ」
でもぉ、と唇を尖らせて、キャメロンはモップの柄に手と顎を載せた。
「寒くなってきたからか、人肌恋しいっていうか? ぼーっとしちゃうのよねえ」
どこか遠くを見つめている。さりげなく肩を押して仕事に戻そうとしたが、大工仕事で鍛え上げられた体はびくともしない。
「アンタ、彼氏君に会いたいだけでしょ」
背中をぐいぐい押しながらピシャリと言うと、キャメロンは目に見えてテンションが上がる。
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