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 「もっと早く来りゃよかった……そしたら男のほう一発ブン殴って根性試してやったのによ――いや、今からでも追いかけるか?」  立ち上がりかけた伊吹を慌てて嗜める。  「アンタは顔割れてるから駄目よ」  伊吹は不服そうな顔をしつつ、椅子に座り直した。  「もちろん、遥斗が事件にかかわってるって確証があれば話は別だけど」  「あれから何か進展はあったの?」と訊ねると、伊吹は渋い顔をした。  「クラブの奴らがどのくらい彩極組と繋がってるかはっきりしてねぇし、水無月を撃った犯人は目星もついてねぇ。事態はなにも進んじゃいないな」  「そう…………」  「彩極組はうちを疑っちゃいるだろうが、今のところ抗争まではいってない。膠着状態だ」  「思ったんだけどさ」  ミフユは周囲の目を気にしつつ、疑問を口にした。  「あの場には、殺された水無月以外にも彩極組の構成員がいたわけじゃない。  その中にはアンタの顔知ってる奴もいただろうに、なんで何も言ってこないのかしら?」  彩極組の視点で考えれば、伊吹や鳳凰組の誰かが水無月を撃ったと思うのが自然だろう。  自分たちの組の若頭を殺されたともなれば、すぐにでも抗争を仕掛けてくるのが順当なはずなのに。  伊吹は顎をさすりながら、半分空のグラスを眺める。  「情報統制されてるのかもな」  「なんのために?」  「そもそも、【EDEN】は鳳凰組の店だ。  つまり、先によその店で勝手やらかしたのはあっちになる。火種が彩極組だとされるとのちのち不利になると踏んだのかもしれねえ。  もしくは、あの場には大陸系の奴らもいたから、そっちとの折り合いをつけるのに苦戦してるのかも」  (それもそうか)  今は向こうも、なんらかの対策を練っている最中ということだろうか。  「つまり、算段が整いしだい反撃してくる恐れもあると」  ミフユが訊くと、こくりと頷いた。  「大いにある。っつーか、このままなあなあで終わるって事はまずねえだろうな。  ま、その前に俺がブッ潰しに行ってやるが」  「……物騒なこと」  「どこかの段階で遥斗とかいうホスト野郎の素性もきれいさっぱり洗いたいが」  そうね、と首肯しつつ、ミフユは遥斗と語らっていたアキの姿を思い浮かべた。  はあ、と息をつくと、何かを考えるようにしていた伊吹が顔を上げる。  「でもいいなぁ、アキちゃん」  「ああ?」

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