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ミフユは遠くを見つめながら、うっとりと頬杖をつく。
「悩んでるとは言ってたけど、パッと見にはあの二人ラブラブだったわ。
いいわよねえ……付き合いたてのとき限定の、こう初々しくて、とにかく甘々な感じ」
「高校んとき女をヤッては捨て、ヤッては捨ての繰り返しだったお前が?」
目を眇 めて茶々を入れてくる伊吹はぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、放っといて溜め息をつく。
「しかもあーんなイケメン王子様にお姫様のごとく可愛がられるなんてさ。乙女の永遠の憧れよ」
「どこに乙女がいるって?」
伊吹の顔がますます渋くなっていく。
すると恋愛話のにおいを嗅ぎつけてか、ミフユの後ろからパピ江がひょこりと生えてきた。茶髪のウィッグでできたツインテールが揺れる。
「アタシも恋愛した~い!」
「したいわよねぇ! パピ江ちゃん!」
二人して両手を組んで体をしならせ、どこかにいる王子様に祈るみたいにする。
「もうすぐクリスマスだしさ。世はデキたてほやほやカップルで溢れ返ってるってのに、独りじゃわびしくてやってらんないわよ」
「そうですよぉ。つーかクリスマスって元来家族と過ごすものなのに、いつのまにか恋人とイチャつく性なる夜♡なんてのが定番になって。これは日本の悪しき風習ですよ」
パピ江はこの店で唯一の恋人いない仲間なのだが、とはいえ彼はまだ二十前半だ。おっさんに足がけしているミフユには生々しい危機感がプラスされる。
「ああ、アタシにもイイ人が見つからないかしらね。イケメンで、性格も良くて、お金持ちで――なんて贅沢は言わないからさ。
せめて甘々イチャイチャできる相手がほしー」
パピ江が首を傾げてミフユを見る。
「ママ、今オトコいないの?」
(……い、伊吹ちゃんの視線を感じる)
訊ねられたミフユはたらりとこめかみに汗を浮かべつつ、首を振った。
「いないわよ。とんとご縁がなくて」
答えると、パピ江はふうんと意外そうに目を瞬かせて、重ねて質問する。ミフユと伊吹の顔を交互に見ながら。
「ママって、今まで何人くらい付き合ったことあるんですか?」
「……数え切れねえよこいつ、一回手に入れたらすぐ飽きて捨て」「遊びはカウントしないとしてまともに付き合ったことなんてないわよ!」
かぶせ気味に伊吹を遮り、焦って答える。
「そうなの? いがーい」
手を口に当てて驚くパピ江の横に、モモが並ぶ。
「でも、五年くらい前に一人いなかったっけ?」
「えっ?」
(いたっけ?)
と思ってしまったが、よくよく振り返ってみると、ぼんやりとほとんど顔も思い出せないシルエットが浮かんできた。
「あ、あー……」
見た目はかなり好みだったはずなのに、ほとんど印象に残っていない。
だが、確かにいた。一人。
わりと真面目なお付き合いとして始めたのだが、数か月してすぐに別れてしまったのだった。
「いたけど……嘘ほど保 たなかったのよね……」
伊吹が、ふんっと鼻で笑う。
「相変わらずか。どうせ顔もろくに覚えてねーんだろ」
図星を突かれて、ぐ、と詰まる。
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