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「なによ。……そりゃ伊吹ちゃんは結構長持ちするタイプだけどさ? 一回付き合ったら別れるまで絶対浮気しないし」
と、高校生の頃に伊吹がはじめて紹介してきた彼女を思い出し、心の中でハンカチを噛み締めたが、素知らぬ顔をしてそっぽを向いた。
「師走さんは、見た目を裏切らず一本筋通ってるのねえ」
モモに言われ、伊吹はせせら笑う。
「まあな。どっかの軟派な野郎とは違ってな」
「ナンパで悪かったわね」
(アタシだって、こんな片想いこじらせてなきゃもっとマシな恋愛してたっての。たぶん)
と内心ぷんすかしていると、
「ミフユちゃんにだってこんなに一途だしねぇ」
モモがさらりと爆弾を投下した。
げほごほと噎せる伊吹に、モモがあら?と小首を傾げる。
「だってそうじゃない?
何年も会ってないママのこと、忘れもせずに一生懸命探してさ。
再会してからだって、こうして足しげくお店に通ってきてくださるじゃない」
「だからそれは! ……っコイツは俺のダチだからで」
必死の形相で反論しようとする伊吹に、モモはあっさりと頷いた。
「そうよ。
だから、『師走さんは“親友”にだって一途で素敵ね』ってお話じゃないの」
狐につままれたような顔をする伊吹に、ミフユは呆れる。
(うーん、完全にモモちゃんの掌の上で転がされてるわ)
「にしたって“一途”なんて……ダチとの話で使うか」
もごもごとぼやいている伊吹にモモが笑う。
「そんな言葉を使いたくなるくらい健気だってこと。他の人に対しても同じ熱量なのかしら」
「あ?」
伊吹は眉を上げて、変な顔をする。
「いや……そこまでするかは知らねぇが。如月は、高校ん時からのツレだから」
「そう? 学生時代のお友達は他にもいらっしゃるでしょう」
「いるけど」
「その人たちにも、同じくらい熱くなれるの?」
訊ねられて、伊吹は、さらに変な顔をして唇を尖らせた。
「こいつは、別格だから」
………………。
「だって、ミフユちゃん」
にま~と厭らしい笑みを浮かべながら振り向いたモモに、ミフユは最大限のしかめっ面で応えた。
「サイアク」
「やーん、ママ顔赤ぁい」とパピ江がひやかしてくる。
(マジで性質 が悪いのよ、伊吹ちゃんは!!)
ミフユは顔から火が吹き出そうになりながら、ガンガンと乱暴に調理台を拭き始める。
(ほんっとうに最悪! 恋愛的な意味じゃないからこそ!!)
憤慨するミフユに、伊吹は「サイアクってなんだ、こっ恥ずかしいのは俺もなんだぞ」とかなんとか、ズレた文句を言っている。
「知らないわよ! もうっ皆すぐサボるんだから――一応アタシ雇い主なんだからね、キリキリ働かなきゃ給料さっ引くわよ!」
それでもまだとぼけた伊吹と一緒にからかわれながら、ミフユは皆に古傷をつつかれ回された。
・・・
午前五時。
このごろはこの時間になってもまだ辺りが暗い。
「伊吹ちゃん。いいの? こんな時間まで油売ってて」
店を閉めて、下のゴミ置き場でモモたちと別れたミフユは、後ろを振り返った。
閉店までずっと店にいた伊吹は、ミフユの顔を見つめ返して「別に」とそっぽを向く。
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