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 「元々今日はオフだ。どっかで飲んで、帰って寝るだけのつもりだったから」  「男やもめの休日は侘しいわねぇ」  「うるせえ」  軽口を叩きながら路地裏を歩いていると、「そっちこそ」と声がした。  「ん?」  歩は止めず、ゆっくりと歩きながら右隣に視線を遣る。  「そっちこそ、さっさと帰んなくていいのかよ。家、店のすぐ上だったろ」  「うん」  スキニーのポケットに手を突っ込んで、プラプラと歩く。  「いいの。酔い覚ましだから」  「ふうん」  シャツ一枚だとさすがに肌寒い気もするが、酔って火照った体には早朝の空気が涼しいくらいに感じる。  「軽くアルコール抜いてから寝ないと、起きたとき二日酔いになっちゃうからさ。一日中頭痛が酷いし」  「飲み屋も大変だな」  「そうかな。結構楽しいけど」  ぽつぽつと他愛のない話をしながら、薄暗がりの道を歩く。  実を言えば、伊吹がいなければ今頃いつも通り帰って寝ていたと思う。  もう少し。  もう少しだけ、伊吹と二人きりでいる時間を作りたくて。  この時間を終わらせたくなくて、意味もなく道草を食っている自分を密かに笑う。  (子供みたいな恋愛してるわよね、アタシ)  伊吹と出逢ってから何年も経って、年齢を重ねて、それなりに恋愛の仕方を身につけたつもりでいた。  相手にのめり込みすぎず、あくまで自分を保ったまま相手との関係を築いていく方法。  だがそれは要するに、伊吹以外の人間がどうでもよかっただけなのだ。  伊吹が目の前に現れれば、その瞬間に初恋を迎えたばかりの高校生に戻ってしまう。  手で触れる勇気も持てずに、ただ自分の中でこの大切な時間を抱き締める。そんな未熟な。  (どこまで臆病なんだろう)  この心地よい停滞にいつまでも浸ってしまうから、進歩がない。  呆れながらもどこか可笑しく思っていると、  「……見つかるよ」  ぽつりと呟く声が聞こえて、足を止めた。  「え?」

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