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 合わせた唇から、伊吹の熱を感じる。  と同時にひやりとした感触があった。  白い氷の粒が舞い降りては、ちょうど唇に載り、すぐに溶けていく。  凍てついた空から、雪が降り始めていた。  どちらも何も言うことなく、動くことなく、止まっている。  落ちては溶けていく雪片がなければ、本当に時が止まっているんじゃないかと思えるほどの間、そうしていた。  「――ざけんな」  音もなく唇を離すと、伊吹が呟いた。どんな表情をしているのか窺う間もなく、左頬に燃えるような衝撃が加わった。  避ける気もなかったので、喰らった衝撃のままによろめく。  すぐ後ろにあつらえたようなごみ置き場があり、もろに突っ込む。けたたましい音とともに、ごみ袋の雪崩に巻き込まれた。  「痛ってー……こんなベタなことある……?」  殴られた頬を擦りながら上半身だけ起こす。コンクリートに打ち付けたようで、背中もズキズキと痛んでいた。  伊吹のリアクションは想定内だったが、甘んじて受け止めたことを後悔するくらい頬が激痛に苛まれている。  「相変わらずいいパンチしてるわ、伊吹。すっげ……全然鈍ってないのな」  へらへらと笑いながら、それでも伊吹と目を合わせられなかった。  「鈍る訳あるかよ。こっちは八年ずっと現役でやってきてんだ」  どかどかと大股に近付いてきた伊吹に胸ぐらを掴まれて、乱暴に揺さぶられる。  「てめーは逆だな。八年ずっと逃げ続けてきて、そこまで腐っちまったのか。おい、コラ」  襟が締め付けられて息苦しい。顔を見ようともしない自分にイラつくのは分かるが、まともに顔を見られる気がしなかった。  「冗談じゃ済まねえぞ……」  低い声で凄んだ伊吹は、掴んだ襟をきつく握り締めながらミフユを詰った。  「てめぇ、何考えてやがる。男の世界で生きてきたお前が、なんでこんなことする? あの頃のお前はどこにいったんだよ」  もう、聞いた。それは散々聞いた。  「……アタシはもうあの頃のアタシじゃないの」  これも、何度も言った。  伊吹がどれだけ過去の自分を望もうが、それに応えることはできないと。  「認めねえ…………」  低く呟いた伊吹は、胸ぐらを掴んだまま、怒りを爆発させた。  「いつまでも甘えてんじゃねえよ!! こんなんお前じゃねぇだろ、如月美冬って男はもっと男らしい奴だったろ!  ふざけたことばっか抜かしてねえで昔のてめぇを見せろよ――  ――お前はその気になりゃ、んなカマみてぇにナヨナヨせずに生きていける強い奴だ!!」  「いい加減にしてよ!!」  「!」

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