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 限界だった。  「アタシ、強くなんかない!」  こんな誰が通るかも分からない往来で、年甲斐もなく騒ぐのはみっともないけれど。  分かっていてももう止まらなかった。  「ふざけてんのはどっちだよ?  最初から“アタシ”は“アタシ”だったんだよ!! おまえに会う前からずっと……っおれは“アタシ”だった……。  それを知りもしないくせに、好きなこと言うな!  自分の勝手な理想押しつけて、そのくせ本当のおれが理想と食い違ったら否定して」  涙が溢れてくるのは、怒りよりも悲しみが強かった。  どれだけ言葉にして伝えてもこの男に本当の自分を理解してもらえない。  好きな人だからこそ分かってもらいたいのに、分かってもらえない。  「おまえに分かんのかよ。  男にも女にも、オカマにも、ヤクザにも。  何者にもなれない人間の気持ちが、おまえに分かるか……!」  (ああ、最低。分かるわけないわよ)  余裕ぶろうとして笑っていたのに、結局ぼろぼろ涙を流してヒステリックにぶち切れてしまっている。こういう奴は嫌いだ。  伊吹にはなんの非もない、ただふつうの男だというだけなのに、自分のエゴをぶつけてしまって。  (ほら、伊吹ちゃん困ってるじゃない)  先程までミフユのしたことに激怒していた伊吹が、呆然と自分を見下ろしている。  それが『普通の人間』と『そうではない人間』と線引きされているように感じられて、いたたまれない気持ちになった。  (こうなるのが嫌だったから離れたのに)  伊吹にだけは自分の汚い部分を見せずに消えてしまおうと思っていたのに。  結果、伊吹にだけすべてを曝け出すことになってしまった。  一度溢れ出した言葉はとまらず、一方的に憤りをぶつける。  「アタシはね、物心ついたときから、気付いたらこう(・・)だったのよ。  喧嘩が強くなったのは、そうしなくちゃ――  ――兄貴とそのダチに殺されてたから。  ヤクザになったのは、そうやって死にもの狂いで生きてるうちに他に道がなくなったから。  オネエだってことをずっと隠してたのは、そんなのバレたら男社会じゃ生きていけなくなるから」  胸にわだかまっていたものを全部吐き出してしまうかのように語った。  「――アンタといた時代からアタシはずっとアタシだった。なにも変わったわけじゃない。  ずっと、本当の自分を押し殺してただけ……!」  十年ひた隠しにしてきたことが、ほんの一瞬で台無しになってしまった。  これで肩の荷が下りた気がするのが皮肉だ。  伊吹はミフユの剣幕に圧倒され、言葉を失っていたが、  「……兄貴?」  と呟かれて、ミフユはハッとした。

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