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 いま、自分は、怒りに任せて何を喋ったのか。  口を滑らせて『殺される』なんて強い単語まで使って、話さなくていいことを口にしてしまった気がする。  唇を引き結んだミフユは、よろよろと立ち上がり伊吹に背を向けた。  「っ……しゃべりすぎた。帰る」  「おい、待て」  来た道を戻ろうとしたが、腕を掴まれた。  「何よ」  「何、って」  ぐ、と口ごもる伊吹に、ミフユは皮肉めいた笑みを浮かべる。  「アタシは、アンタが思うよりもずっとどうしようもなくオカマで、なよなよしてて、ウジウジしてる弱い人間なの。これが如月美冬の正体よ」  自分を卑下する言葉を吐く度に身を切られるような痛みが走る。  傷付けられたついでに、いっそズタズタになるまで自ら切り刻んでしまいたくなった。  「アタシが組を抜けた理由、分かったでしょ」  笑ったつもりだったが、うまくできなかった。  「アタシは、あれ以上アンタの理想の相棒を演じ続けるのがつらかった。伊吹ちゃんから逃げたかったの。  でも……」  伊吹を見ると、その顔にはもう怒りも、侮蔑も消え去っていた。  そこに浮かぶのは、ただ戸惑いだけ。  「……アンタとこうしてまた、再会して。  昔みたいに一緒に過ごすようになったら、やっぱり楽しかったの。  未練タラタラなのよね、情けないことに」  自嘲して笑ったミフユは、視線を下に向けた。  「クラブで薬盛られたときだって、アタシ半分は正気だった。  それをあえて流されたのは、薬なんかを言い訳にしてでもアンタに触れたかったから」  爆発した感情が少し落ち着いてきた頃には、伊吹の肩に薄く白い層が降り積もっていた。  それを見て『寒そう』とか、『そろそろ帰してあげないと風邪を引いてしまいそう』とか考える自分にほとほと呆れる。  「……アタシは、伊吹ちゃんがどうしようもなく好きよ。ごめんね」  「如月」  「……離して」  話している間ずっと掴まれていた手を引くと、呆気なく解放された。  何も言わずに立ち尽くしている伊吹に苦笑して、ついと視線を逸らす。  「……もう行って」  「如月、俺は」  「行けったら!!」  伊吹を突き飛ばすようにして押し退けると、ミフユは自宅に向かって歩き始めた。引き止める声はない。  ただ視線を感じたので、ぴたりと立ち止まった。どうにか笑顔のようなものを作って振り向く。  「大丈夫。モリリンちゃんの仇を取るまでは、きちんとアンタたちに協力するから。  ……それ以外に言うことは何もないし、今回の件が終わればアタシと伊吹ちゃんもそれまでよ」  それだけ言い残すと前を向いて、さっさと歩き始めた。  後ろは二度と振り返らなかった。

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