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兄貴は嘲り笑って、冷たく言い捨てた。
「言うわけねぇじゃん。親違うし。同じ家にいるだけのただの他人だもん」
「お前ひっでぇ!」と笑いながらこっちに近付いてきた一人と、目が合う。
「名前なんていうの? つか、それ持ってるの何?」
歯の根が合わなくてまともに喋ることもできない。上の歯が一本抜けている兄貴の友達は、いつまでも返事が返ってこないので不快そうに顔を顰めた。
「え? お前男だよな。妹じゃないよね」
ワンピースを指差されて、どくりと心臓が鳴る。
今日はまだ服に袖を通していなかったけど、アタシが異質なことをしているのは目に見えて分かる。
案の定指摘されて、押し黙った。
「また黙るのかよ。つまんねー、ナツキと全然似てない」
「だから血繋がってないって言ってんだろ」
チッと舌打ちした兄貴は、どすどすと足音を立てて近付いてきた。
すぐ横に顔が来て、睨み付けられる。
「おまえさ、なんかいつもナヨナヨしてるよな。
キッショ、男のくせに」
「……ごめんなさい」
「キショイ」
「ごめんなさい……」
ケケッと悪魔顔負けのあくどい笑い声を漏らした兄貴が、握っていたワンピースに手を伸ばした。
「なんか変だなーと思ったら、やっぱオカマだったんだ!」
「!!」
ぐいっと乱暴に引っ張られて、薄い生地がみしりと嫌な音を立てる。思わず状況も忘れて、出したこともない大声を上げていた。
「やめてよ!!」
兄貴の手を叩き落として、服を取り返す。命よりも大切なそれを守るように抱えて蹲ると、ぞくりとするような声が降ってきた。
「……ああ?」
義父が家族を殴り始めるときに出す声にそっくりだ。
兄貴はいつも自分がされていることをアタシにやって、ストレスを打ち消そうとする。
「キモオカマのくせに反抗してんじゃねーぞ!」
横腹に蹴りが入れられて、うぐぅ、と呻き声が漏れる。当然その一発では収まらず髪を鷲掴みにされて、顔や肩、背中、至るところを殴られて、蹴られた。
「おまえらもやれ!」
「いいの? もうボコボコだけど」
「いいって。その服取って、破ってやろうぜ」
頭上で悪魔の会話がされている。
いま胸に抱えている服を手放したら、この悪魔たちに奪われて壊されてしまう。
「おら、離せって! ぶっ殺すぞ!」
「嫌! いや!」
アタシは、常になく粘った。
掴まれた髪が抜けて悲痛な音を立てようと、頬を引っ掻かれようと丸まってその場から動かない。
だけど三対一で襲われたらどこかで隙ができて、抱き締めていた服を誰かに引き抜かれた。
「あっ……!」
「ナツキ、パス!」
白い塊を受け取った兄貴は、ニヤリと笑って部屋を飛び出す。
ここのアパート一階のベランダは、川沿いに面している。ベランダの手すりを越えて、あいつは土手まで突っ走っていった。
アタシと他の二人もその背を追いかけていく。
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