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 掴まれた腕を解こうとするが、外れない。  ぎりぎりと力を拮抗させながら、師走はおれの額に自分の額を押しつけた。  「しょうもねえ。しょうもねえよ。  この町に来てすぐ『如月美冬っていうヤベーのがいる』って聞いて、久しぶりに骨のある奴と()れると思ったのによ。  蓋を開けてみりゃ、程度の知れた猿山でボス猿気取り、力だけはあるくせにそれを弱い女に向かって振りかざすクズ野郎だ」  「……待てよ。殴ってはねえよ、先生のこと」  言い返したが、奴の目は冷たかった。  「同じことだろ」  腕がぎり、と締め付けられる。骨が軋むほど圧がかけられて痛い。  「実際に手上げて支配しなくても、それをいつでも実行できる奴が力をほのめかして、弱ぇ相手を脅かしたらそれは傷付けてんだよ」  「ムチャクチャ言うなよ、嫌なら抵抗すればいいだろ。それもできないくらい抑えつけたりはしてないし」  「できるわけねぇだろが。馬鹿か、てめぇ」    師走の顔は深い怒りを滲ませていた。  「こっちは男。あっちは女。それだけでハンデがある。そんなこと誰でも分かってっから男は加減すんだろ」  「なにそれ、なんでこっちが手抜きしてあげなきゃなんないわけ? 先生だっていい大人なんだから考えて行動すりゃいいじゃん。  第一、学校にあんなイヤリングなんかしてきて誘ってきたのは向こっ」  もう一発殴られた。  「痛いなあ!! もう!!」  「ふざけんな。イヤリングに『私を犯して』なんて書いてたか? 書いてねぇなら違ぇよ。百歩譲って誘ったにしてもそれはお前じゃねえ。  なんで女が強ぇ男の顔色窺って、自分の服装まで気遣わなきゃならねえ」  おれには分からなかった。なんでこいつがここまで言うのか。  女の話なんか自分には関係ないだろうに、なぜ他人のためにこんなにキレられるのかが。  「それより、男が自分の力使って、てめぇみてーなふざけた輩から女を守ってやるのが正解だろうが。  俺たちの力は、守りたいものを守るために――そのためにあんだろが」  「――――――」

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