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・・・
一時停止したあとで、生活指導の荒川――通称荒センが口火を切った。
「で、これは何事だ……?」
荒センが訊ねて、隣の若い男の教師が「どういう状況……?」と呟く。
さめざめと泣くおれと、そこに馬乗りになったまま固まっている師走。
「喧嘩か?」
「そう」
おれが泣きながら認めると、みんなビクッとした。
「本当に如月か、お前……」
「ウン」
いつもおれが何かと反抗して、それにキレまくっている荒センは、気味の悪いモンでも見ているかのような顔をする。
「ボロボロだぞ。喧嘩っていうか、一方的な暴力に見えるが」
そこで師走を見る。
が、師走は気まずそうに視線を逸らすだけだった。
「大丈夫か? いじめられ……るようなタマじゃないよな、お前は」
「ウン」
ずずっと洟をすすりながら淀んだ声で言う。
「全部おれが悪ぃの。師走は悪くないから、責めないで」
「えっ……?」と小声で漏らしたのは師走だった。
ボコられていた側のおれが自分に非があると言い張るので、荒センたちはナミ先生に「じゃあ後はお任せして……」と言い残して、戻っていった。
「本当に大丈夫なのね?」
もう一個椅子を用意してさっきの面談コーナーに座ったおれたちは、三人で話を再開している。
先生に訊ねられ、おれはひらひらと手を振った。
「へーきへーき」
おれと師走が隣同士で座り、向かいに先生。
「だけど頬っぺが痛そうよ。師走くん、このハンカチ冷やしてきて」
「なんで俺が」「あなたが殴ったんでしょ」
先生にしらっと見られて、師走はしぶしぶ立ち上がる。「なんでこんなことに……」とかなんとかぼやきながら、教室を出ていった。
隣のトイレまで歩いていったのか、足音が遠ざかり、聞こえなくなる。
可愛らしい顔がこっちを見つめてくる。
「ゴメンネ」
「へ?」
おれは、パンパンに腫れた顔を菩薩のように綻ばせながら、謝った。
「おれ、怖かったでしょ。あんなことして」
「き、如月くん?」
唖然とする先生に、謝った。
「『犯す』とか言ってごめん」
単語が出たとたん彼女は、反射的なものだろう、身を固くする。
「犯したりしないよ」
もちろん、はなから本気で言ったことじゃない。実行するつもりはなかったが、半分やってしまったようなものだ。
現に、目の前の女の人は男のおれを警戒して恐がっている。師走が言ったとおりだ。
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