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「せんせーが可愛かろーが化粧してよーが、イヤリングつけてよーが、自由だもんね。
おれ、ばかだったから。お猿さんだから。ゴメンネ」
両手を上げて、もうしないと伝えると、先生は少しだけ緊張を解いた。
「如月くん、何があったの……? 憑き物が落ちたみたい」
実際、何かが憑いていたのかもしれない。
小っちゃい頃の自分の怨念、とか。
ちょうどそのときに濡らしたハンカチを持った師走が帰ってきて、おれの顔に濡れハンカチを叩き付けた。
「ぶっ」
「おらよ」
隣にどっかと腰かけてきた師走に目を遣って、おれは、「あは」と笑った。
「そうだね。落としてくれたのかも」
おれと先生、二人から視線を集中された師走は、訝しげな顔をして「はあ?」と眉を顰めていた。
・・・
「じゃあ皆、教科書五十二ページを開けてください。今日はレッスン5のまとめに入ります」
ナミ先生は今日もはきはき英文を読み上げる。
うちのクラスの生徒たちは、あの一件以来英語の時間だけはすっかり真面目に授業を受けるようになって、五十分が静かに過ぎていく。
「田中くん、ノートを開いて。筆箱出して」
「ちぇー、なんだよ皆。大人しくしてさぁ」
しかしおれの前の席のチンピラはアホなので、世情を読めず一人でボイコットする。
「田中くん。言うこと聞きなさい。その態度じゃ評価が下がるよ」
「ナミちゃん可愛くねー」
ヘラリと笑った田中は、先生に下卑たにやけ面を向けた。
「女のくせに調子乗ってたらレイプしちゃうぞっブグォハァアッ!!」
おれはその頭を引っ掴んで机に叩きつける。
「きっきぃくん!? なんでっ!? なんでですかアイタタタ!!」
「てめーナミ先生侮辱してんじゃねえぞ、次やったら頭カチ割る」
「痛い痛い痛いこないだきぃくんも言ってたのに――痛っ、そんなきぃくんもパネェ~! かっけぇ~!」
掴んだまま頭をごーりごーりと。
と、そこで、
「如月くん、やりすぎです! 一回二人とも廊下に出て頭冷やしてきなさい!」
先生のストップがかかったので、「はーい」と田中を引きずって仕方なく外へ。
衆目を浴びながら閑散とした廊下に出て、外に広がる青空を見上げた。
「きぃくん……何の心変わりっすか……?」
「別に」
すがすがしい空だ。
なんのことはない。
急に心を入れかえて慎ましい態度をとったところで、おれが白だといえばクラスの奴らみんな白だという。黒といえば黒になる。
おれが一番強いので、どう振る舞おうとクラス全員反発せず従った。
弱い者を貶めてまで自分の地位を高めなくても、大丈夫。
そんな心持ちになったことが、この爽快な気分の理由だろうか。
もう野蛮な言動で身を固めなくても、誰もおれを傷付けたりしない。
それが分かったのは、師走のおかげだ。
いつまでも弱い子供の気でいたおれに、自覚を持たせてくれた。
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