110 / 191

3−51

 自分はもう、奪われる側の人間じゃない。  そして力のある立場に立ったからには、弱いものを嬲るんじゃなく守る義務がある。  義務といったけれど、『脆くて大切なものを守る』っていうのは、おれの悲願だった。  忘れていたその大前提をあいつは思い出させてくれた。  変わったことと言えば、もう一つある。  「しーわーすぅくん、あーそーぼっ」  「ゲッ如月」  放課後、学校近くの繁華街に赴くと、案の定あいつがいた。  「『ゲッ』てなによ。おまえもおれと一緒に遊びたいだろ」  「なんで断定してんだよ」  他の友達とちょうどゲーセンに入るところだったらしく、それについて行く。  師走のツレたちは興味津々でおれをチラチラと見てくる。  「伊吹、お前いつの間に如月君と仲良くなったの?」  「こないだ」「なってねえ」  こっちは喜々として答えるのに、師走はそっけない。  もう一人の友達が「え、でも噂で聞いたんだけど」と訊いてくる。  「お前、女巡って如月君とタイマン張ったって。  そんで、お前が勝って如月君がボッコボコにされて泣いたとか……さすがに嘘だよな?」  「間違っちゃねえが誇張は激しいな」  はあと溜め息をつく師走に、周りがエッ、と声を上げる。  「じゃ、お前が勝ったの? 如月君に? ホント?」  こっちを見てきたので、頷く。  「だからおれ、師走とダチになりたいの」  小首を傾げて人差し指で両頬をつっつくぶりっ子のポーズ。師走の冷たい視線が突き刺さる。  「泣かされたのに?」  「泣かされたから!」  師走の友達に訊かれ、笑顔で答えると「え、やばい人じゃん……」と引かれた。  こいつらは事の仔細を知らないので、そんなリアクションでも仕方ないのかもしれない。  おれは痛めつけられて泣いたんじゃなく、師走の漢気に泣かされたんだ。  だから、そんなこいつのあったかい部分に、ついていきたいと思う。  師走には煙たがられつつ、周りの奴には一歩引かれつつ強引に遊びに加わっていると、グループの一人が声を上げた。  「うわっ」  ゲーセン特有の薄暗い狭い通路で、向かい側から来た集団と肩がぶつかったらしい。  「わり」  「ああん? ンだこのガキャ!?」  そいつは謝ろうとしたが、ガサガサした声に遮られた。  その瞬間全員が厄介な奴に当たったと気付いて、うへえという空気になった。

ともだちにシェアしよう!