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自分はもう、奪われる側の人間じゃない。
そして力のある立場に立ったからには、弱いものを嬲るんじゃなく守る義務がある。
義務といったけれど、『脆くて大切なものを守る』っていうのは、おれの悲願だった。
忘れていたその大前提をあいつは思い出させてくれた。
変わったことと言えば、もう一つある。
「しーわーすぅくん、あーそーぼっ」
「ゲッ如月」
放課後、学校近くの繁華街に赴くと、案の定あいつがいた。
「『ゲッ』てなによ。おまえもおれと一緒に遊びたいだろ」
「なんで断定してんだよ」
他の友達とちょうどゲーセンに入るところだったらしく、それについて行く。
師走のツレたちは興味津々でおれをチラチラと見てくる。
「伊吹、お前いつの間に如月君と仲良くなったの?」
「こないだ」「なってねえ」
こっちは喜々として答えるのに、師走はそっけない。
もう一人の友達が「え、でも噂で聞いたんだけど」と訊いてくる。
「お前、女巡って如月君とタイマン張ったって。
そんで、お前が勝って如月君がボッコボコにされて泣いたとか……さすがに嘘だよな?」
「間違っちゃねえが誇張は激しいな」
はあと溜め息をつく師走に、周りがエッ、と声を上げる。
「じゃ、お前が勝ったの? 如月君に? ホント?」
こっちを見てきたので、頷く。
「だからおれ、師走とダチになりたいの」
小首を傾げて人差し指で両頬をつっつくぶりっ子のポーズ。師走の冷たい視線が突き刺さる。
「泣かされたのに?」
「泣かされたから!」
師走の友達に訊かれ、笑顔で答えると「え、やばい人じゃん……」と引かれた。
こいつらは事の仔細を知らないので、そんなリアクションでも仕方ないのかもしれない。
おれは痛めつけられて泣いたんじゃなく、師走の漢気に泣かされたんだ。
だから、そんなこいつのあったかい部分に、ついていきたいと思う。
師走には煙たがられつつ、周りの奴には一歩引かれつつ強引に遊びに加わっていると、グループの一人が声を上げた。
「うわっ」
ゲーセン特有の薄暗い狭い通路で、向かい側から来た集団と肩がぶつかったらしい。
「わり」
「ああん? ンだこのガキャ!?」
そいつは謝ろうとしたが、ガサガサした声に遮られた。
その瞬間全員が厄介な奴に当たったと気付いて、うへえという空気になった。
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