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・・・
それから半年もすると、伊吹と一緒にいる時間は長くなっていった。
伊吹たちのグループとツーリングに出ることも増えて、学校でも外でもつるむようになっていった。
「伊吹! 峠攻めんぞ峠~!」
バイクに乗って、アホみたいな速度を出して上り坂の道路を突っ走る。おれの少し後ろを走るのが伊吹で、さらに後ろに他の奴らがついてくる。
「ばか、死ぬぞ!」
後ろから伊吹が怒鳴ってくる。が、声は弾んでいた。あいつだってかなりのスピードだ。
半ば無理やり仲良くなって知ったことだけど、伊吹は元々単車が好きらしい。
だから同じ単車好きだった今のメンバーで集まるようになって、皆でいろんな道を走るのが習慣になった。
その延長線上に喧嘩があって、流れで強い奴と殴り合うのが好きになったんだとか。
おれみたいな不良崩れと違って、伊吹の根本は走り屋なんだと思う。
海沿いを走っているので、水面が太陽をキラキラと反射する。
前方に注意を払いながらその景色を眺めて、身体のどこか奥深いところが疼くのを感じた。
――伊吹と出会わなければ、こんな光景を見ることもなかったんだろうな。
「如月! こっちもすぐ追いつくかんな!」
背後の伊吹が叫んで、速度を上げてくる。
こっちも追いつかれまいと限界までアクセルを踏んで、生と死の境界を反復横跳びする勢いで走った。
峠を越えて道なりに走っていくと、県境に差しかかった。二つの県の間には海があるので、陸地と陸地を繋ぐ橋が架かっている。
集団はその大橋の手前にある休憩所に停まり、駐車場でヘルメットを取った。
「はー、師走と如月バカ速ぇ」
「命知らずにも程があんべ」
仲間の一人が言って、皆笑う。
「今までは師走がダントツ速かったんだけどなぁ」
「今は如月が毎回良い勝負だよな」
黒のメットを脱いで、伊吹が顔を出す。
「コイツ、まじもんの馬鹿だからな」
悪態にも聞こえるそれは、伊吹なりの親交の証だと最近になって知った。
「てめぇ、死ぬの怖くねえのか」
バイクを降りておれの隣に立った伊吹は、肩を突いてきた。
「それよか、ぎりぎり攻めるのが気持ち良い」
「馬鹿だ」
答えると、伊吹はおれの肩を叩いて満面の笑みを浮かべた。
警戒心のない、打ち解けた相手にだけ見せるような表情。
くしゃっと崩れて大口を開けて笑う。
「――――――」
おれは、言葉を喪った。
(え。かわいっ)
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