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 きゅんっ、と胸のあたりが疼いて、放心した。 ……いや。きゅんって、何?  ベタなときめきの効果音みたいだが――なにかの間違いだろう。  伊吹の笑顔が、『太陽の下がこんなにも似合う男が他にいるか』と思わせるほどのものだったから、脳が勝手に勘違いした。  そう、恋か何かと……恋。そんなわけが―― ――恋しちゃったんだ、たぶん。  思い直そうと頭を振っていたのに、当時流行っていた曲がひとりでに頭の中に流れ始めて、意図せず確信させられてしまった。  頬のあたりが熱くなっていく。  それは、俺の意思ではどうすることもできない反応で。  「如月?」  おれを呼ぶ伊吹の声が、やけに色気を含んで聴こえた。  伊吹の声が変わったんじゃなく、おれの聴覚が狂っている。 ――まじか。  ふと、あの白いワンピースが頭をよぎる。  昔のおれは可愛いものが好きで、女装するのが好きだったけど、男に恋したことはない。  初体験も中学の上級生の女だった。それからもヤるのは女相手だけで、男となんて考えたこともない。だってそんなのキモいし……。  いや、考えたことがないんだから決まったわけじゃない。  おれは、本当に男相手に『キモイ』と思うんだろうか?  「おい、如月」  「うわっ!」  完全に思考を飛ばしていると、いきなり伊吹に顔を覗き込まれて文字通り飛び上がった。  「なんだお前、ボーっとして」  「ワリ……ちょっと、己のこれまでの生涯を顧みてたというか」  心臓がばくばくと早鐘を打つ。ただ単に驚いたから脈拍が上がっているのか。あるいは、他の理由があるのか。  どぎまぎしながら変な弁解をすると、伊吹はなんだそりゃ、と顔をくしゃりとした。さっきのやつだ。  「今頃走馬灯みてんのか」  笑いながら売店のほうに歩いていった伊吹の、ライダースの背中を見送る。 ――……ないないない。だってそんなの、ありえないでしょ。  どくどくと鳴る騒々しい胸を抑え、熱くなった頬をもう片方の手の甲で冷やして。 ・・・ ――まじかぁ。  伊吹と出会ってから、そんな感情になる機会が何回もある。  「“ミフユくん”、すっごく気持ち良かったよ……」  「ああ、そう……」  安っぽいラブホのベッドの上で、事後裸のまま布団に転がりセフレを腕に抱く。そのまま一服。  賢者モードで死んだ目、と、ここまでは通常営業なわけだけど。  「また会おうね? 俺、いくらでも払うから!」  隣にいるのが平たい胸にオプション(ちんこ)付きのオッサンっていうのは、初だ。そして、最後まで気持ち良く致せてしまったというのが気付きたくなかった新発見だった。 ――なんなら、三ラウンドいけたし。過去最高に盛り上がった気がする。  下の名前の読み方を変えただけの適当な名前を使って、ゲイ向けの掲示板で相手を探し。  オッサンと称したものの、まあせいぜい三十前後の会社員風のこの人とホテルにしけこんだ。  こないだのツーリングの後、半信半疑にゲイ雑誌を買ってみたらあろうことか勃ったので。  それはないだろと本番に挑んで確認してみたところ、自分の疑惑を否定するどころか裏が取れてしまったんである。  「ミフユくん、今までどれくらいヤッたの?」  「えー……男は(ゆう)さんが初めてで……女はいっぱい……」  煙草を吸いながら答えると、オッサン――というかオニ―サンが跳ね起きた。

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