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義理の家族とは、それ以来顔を合わせていない。
義父が傷害で逮捕された後、じつは前科持ちだったこともあって懲役刑が決まり、母さんとの離婚がすんなり成立したからだ。
それに伴って、実の息子である兄貴は父親の籍に入ることになり、おれは母さん側に付き、兄弟の縁もやっと切れた。
身軽になったおれは、自分の生活費と母の入院代、依存症治療にかかる費用を稼ぐために高校を中退した。
母さんの長期入院先も決まり、おれは中退を機にアパートを兄貴と服役中の義父に譲って、単身で越すことに決めた。
この街で過ごす、最後の夜。
そんな事件が起きたことを知った伊吹たちは、しかしおれをいつもどおりツーリングに誘った。
みんな訊きたいことは山ほどあるはずなのに、誰も何も言わず、ただひたすら走って夜風に吹かれた。
普段よりだいぶ遠くまで流して、山の上まで登る。
そこをゴールにすると、道の端で伊吹がメットを取った。
「如月。お前、マジで行くのか」
「……おう」
伊吹にそれだけ問われて、おれも短く答えた。
「落ち着いたらまた一緒に走ろうな!」
と声をかけてくれたのは、伊吹の友達だった男だ。最近はおれともよくつるんでくれる。
「だな。
如月、何年先でもいいからさ。またこうして皆で集まろうぜ」
別のやつが――こいつも伊吹のツレで仲良くなったクチだけど、おれの肩を叩いた。
「うん。集まろーな」
みんなの顔を見渡して頷く。
その口約束がどれだけ儚いものなのかはこの場にいる全員知らない。
「だーっ、けどみっくんの喧嘩が見れなくなっちまうのかあ!」
「若干不安だよな。伊吹は強えけど、俺たちクソ弱いし……」
「つーか喧嘩とかバイクとか言ってる場合じゃなくね!? そろそろ就職考えなきゃだろ!」
「おま、それ言うなって。俺ら絶望的なんだから」
自虐しながら皆笑い転げる。
それから話はたわいもない方向にシフトしていって、何組の誰が可愛いとかあいつとヤッたとか、バ先の先輩がうぜぇとか、いつもみたいに馬鹿話で盛り上がっていった。
その光景を見守りながら、バイクを降りてやや集団から離れていく。崖の上から夜景が見えた。
「如月」
誰も見てないと思っていたのに、声を掛けられた。
「伊吹ちゃん」
「その呼び方やめろ」
へへ、と笑うと、伊吹が煙草に火を点けながらおれの隣に立った。
一度煙を吸って吐くくらいの時間を置いて、伊吹が口を開いた。
「お前、千秋さんのところに行くって聞いたけど。本当か」
一本貰って、伊吹の煙草から火を受けながらその顔を覗く。
「話早いなぁ。バレてたか」
おれは苦笑したが、伊吹の顔は真面目だった。
ものすごく近い距離にいるものの、暗いのであまり相手が見えないのが幸いだ。顔が赤くなっているのがバレずに済む。
おれの煙草に火が移ると伊吹は離れていった。彼の吐き出した紫煙が、遠い街灯りにぷかりと浮かぶ。
「大丈夫なのか。あの人、ヤクザだろ」
「うん。そう」
母さんに償いながら生きていくには、途方もない金が要る。そのためにおれが選んだ道は、まっとうな生き方ではなかった。
「他の奴らには言ってるのか」
「言わねーよ。言ったところで何も変わらない」
首を振って、小さく笑う。
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