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・・・  (で、今アタシは現在進行形で自分を見失っておりますが――!?)  時は戻って現在。  【大冒険】の上階にある自室の前の共同廊下に立ち、ミフユは煙草を吹かしていた。  「あー……やっちまったわ」  昨日、というか今日の明け方に、伊吹に熱烈な告白をかましたミフユは。  帰宅すると、一切の連絡手段を()ってほぼ丸一日寝通した。  そして夕方になってやっと起き出し、スウェットに髭面というオッサン丸出しの格好でコンビニに赴き、数年ぶりに煙草を買って今に至るというわけである。  気分転換になるかと思ってこうして吸ってみているものの、何の気晴らしにもならない。これじゃ肺の汚し損だ。  「まったく、お肌に悪いから禁煙してたってのに……まぁいいか。どうせ顔もむくんでるし」  痛む頭を抑えて、ボサボサの髪を掻き毟る。  柵に凭れて空を見上げると、太陽は沈んで姿が見えなくなっていた。  そろそろ仕事に行かなければならない。  「はぁ――……っ」  昨日の事件の衝撃からか、寝ている間に伊吹との出会いから≪一度目の別れ≫までを一気に夢に見て思い出してしまったが。  目が覚めてみると、あの綺麗な思い出を、どうして綺麗なままにしておけなかったんだろうと後悔した。  (どこから間違ったのかなぁ、アタシ)  あの時あのまま別れて、二度と会わなければよかった?  いや、そうじゃない、と思い直す。  ヤクザになってから偶然鳳凰組で伊吹と再会したけれど、あのときはまだうまくやれていたのだ。  そうじゃなくて、ボロが出てしまったのは――。  (……そうだ。あのときだわ)  思い出して、唇を噛んだ。  はじめに失敗したのは、≪二度目の別れ≫のときだ。  (青臭くって、思い返すのも恥ずかしい)  ヤクザという社会的には堕ちた立場だって、あの頃の自分は幸せだった。  決して人として立派に暮らしていたとは言えないけれど。  信頼できる組長がいて、伊吹がいた。  だが、伊吹への感情が暴走して逃げ出してしまった――その≪二度目の別れ≫までは、彼の相棒として楽しくやれていたのだ。  短くなってきた煙草を携帯灰皿に捨てて、ぼんやりと外を眺める。  ミフユは、腹の底から息をついた。  (伊吹ちゃんの反応からすると、なにも覚えてないんだろうけど)  “あの夜のこと”がなければ、自分は今も鳳凰組で生きていただろうか。  (いつだって失敗するのは、アタシの欲のせいだわ)  八年前の≪二度目の別れ≫でも、昨夜のことでも、  自分を不幸にするのは、いつも抑えきれない自分自身の欲なのだ。  昨日だって、ミフユが欲を出して伊吹にキスなんかしなければ、昔みたいに楽しくやれていたはずなのに。  (アタシが、普通の男だったらな)  そんなどうしようもないことを考えてしまう。  もしそうであれば、伊吹に恋なんてせず、こんなふうに苦しむこともなかっただろう。

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