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3−64 『八年前のこと』

 高二の二月に別れた如月と再会したのは、一年後の春だった。  伊吹は高校を出たものの、行き場がなかった。  そこで、手っ取り早く大金を稼ぎたかったのもあってヤクザになった。  道を外れることにさほど抵抗がなかったのは、先に同じ選択をした奴を知っていたからかもしれない。  とはいえ、奴――如月とは違うツテで界隈に入ったので、まさか会うことはないだろうと思っていたのである。  『師走。お前の教育係を紹介してやるよ』  先輩ヤクザに呼び出されて事務所にやって来ると、そんなことを言われた。  『年も近ぇから話しやすいだろうよ。そいつに色々相談しな』  『はい』  はきはきと返事をすると、強面の先輩はよしと頷いて後ろを向いた。  『如月、こっち来い』  『へーい』  呼ばれた名前と。  それに応える間延びした声にどうも聞き覚えがあったので、伊吹は驚愕した。  『おら、早く来い。  ったくテメェは、まぁたそんなケッタイな服着やがってよ! ちったぁ極道らしい格好しろ』  『へーへー……って』  やって来た長身の男は、伊吹に目をとめると静止した。  男は学ランこそ着ていなかったものの、その茶髪にゆるい美形。見覚えがありすぎた。  『い、伊吹ちゅわんっ!?』  叫んだソイツは、兄貴分の言う通り白のチノパンに変な模様のシャツという、妙に(はく)のない服装をしている。  『如月!?』  思わずこっちも声を上げてしまった。  えっ、と兄貴分が驚くのを尻目に、如月は悲喜こもごもの――喜びが九割程度を占めている、複雑な表情を浮かべた。  『何でこんなとこにいんの!?』  暗に“なんでヤクザなんかに”と訊ねられているように感じたが、伊吹も訊ね返す。  『そりゃこっちの台詞だ、阿部組じゃなかったのかテメェ!?』  高校を中退した如月は、不良仲間だった千秋というヤクザの元についた。  が、千秋のいた阿部組はすぐ潰れて、鳳凰組に吸収されてしまったらしい。  その鳳凰組に如月がいるとは知らずやって来たのが、高卒後すぐに組入りした伊吹だった。  「え、知り合い?」とキョロキョロしている兄貴分を置いて、如月と二人で爆笑した。  二人ともどうしようもねぇ、同じクズだ、と。  『ンだよ、腐れ縁だな。この野郎』  笑いながら背中を叩くと、如月も笑った。泣きそうな顔で。  『マジで。なぁんだ、伊吹ちゃんがまた隣にいんなら、おれさいきょーじゃん』  『“俺ら”な』  すっかり置き去りにされた兄貴分は、終始ぽかんとして伊吹たちを交互に眺めていた。  そんななりゆきで、《一度目の再会》を果たした後のことだ。

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