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3−67 『八年前のこと』
『なんだこれ……。罰ゲームか?』
――そうだ。
如月が組を去る前の、最後の夜のこと。
伊吹は、自分の上で泣きそうな顔をしていた如月にそう言ったのだった。
(どうしてこんな事を今まで忘れてたんだ)
酷く酔っていたからか。
だが、それにしては今、細部まで鮮明に思い出した。
つまり本当に忘れていたのではなく、意図的に記憶を封じていたんだろう。
けれども、そのあと如月がどんな表情をしていたのか思い出せない。
後のことで覚えているのは、彼がそのまま家を飛び出して二度と帰らなかったことだ。
翌日以降如月は組に姿を現すこともなく、八年後のつい先日に再び会うまでは消息も知れなかった。
自分が恥ずかしい。
如月がなぜ組を去ったのか、本気でずっと分かっていなかった――いや、分かろうとしていなかった。
しかし、これだけはっきりと記憶が蘇ってみれば、さすがに理解する。
いくら今までゲイやらオネエやらと無縁な人生を送ってきたとはいえ、いかに自分がデリカシーのない言葉をかけたのかを。
「如月……」
如月は伊吹が思うよりずっと前から“アタシ”だった。
彼は伊吹が思うよりずっと前から、伊吹のことを好きだった。
あの夜、アパートの狭い部屋の中でも葛藤を抱えていたんだろう。
そしてそれよりもっと前から。
普通の男として振る舞おうとする『自分 』と、それができない本当の『自分 』との狭間で苦しみながら……
伊吹を好きだという恋心を抱えて。
そんな奴に、自分は何と言った?
「そりゃ、会いたくねえよな、俺に……」
如月に昔から好かれていたのは知っている。
出会った頃は、殴られた相手に懐くなんて変な奴だな、と思った。
勝手にゲーセンまでついてきて半グレのオッサンを潰すし、伊吹たちのツーリングに参加するためにわざわざバイクまで買うし。
どこでも伊吹伊吹、伊吹ちゃん、と、自分の横について回っていた。
噛み合わなかった歯車がぴたりと嵌まった気がして、如月に対して抱いていた怒りやもどかしさが雲散霧消する。
(……俺は、自分を守りたかっただけだ)
如月が自分を恋愛的に好いていると認めてしまえば、それに何かしらの答えを出さなければならなくなる。
そうしたら、二人の関係が変わってしまう。
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