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 口ではなんと言おうが、如月との友情を自分は気に入っていた。それを変えたくなかった。  (自分を守りたいがために、俺はどれだけアイツを傷付けてきたんだ)  こんな事がなくたって、途中で気付いていたはずだ。  如月が伊吹に向ける感情に。  彼が自分に何を望んでいたのかも。  気付いていて、知らないふりをして揉み消した。  (自分を否定されたと思って当然だよな。  俺は、俺が見たいアイツの姿しか見ようとしてなかったんだから)  如月は伊吹以上に仲の良い友達はなく、家族ともうまくいっていない様子だった。  そんな彼を他でもない自分が否定してしまったら、どこの誰が『本当の如月美冬』を認めてやるというんだろうか。  (それでも如月は、ここでアイツなりに居場所を作って、せめても『ミフユ』として生きてた。  そこに、俺が出てきたんだ。八年前の負の遺産が)  そして如月の新しい居場所を脅かし、さらには懲りずにまたも彼を否定したのだ。  それも全ては、伊吹自身のよりどころだった如月美冬の幻影を壊させないために。  「……ダセェ」  自分を詰る。  あんなに弱い奴を、伊吹のエゴで傷付け続けてきた。  それは――自分の『弱きを守り強きを挫く』という信念からはかけ離れた行為じゃないか?  伊吹は、ふつうの男という安全圏に立ちながら、如月をさんざん否定してきた。  自分の要求を通そうとするばかりで彼のことを考えていなかった。  八年前、一度目の再会の後は、伊吹のせいで如月との友情を失い。  今回の二度目の再会でもまた伊吹が如月を傷付けて、取り戻しつつあった絆をふたたび壊してしまった。  (ここでけじめをつけなきゃ、男じゃねえ)  何も見えない闇の向こうを見つめる。  (高校から、十年逃げ続けてきたんだ……  もう十分だろ。いまが向き合う時だ)  伊吹は暗い天井に向かって手を伸ばし、なにかを掴むように拳を握り締めた。

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